"十八年間、壁の中にいた妻" 第8話
「ニュース、ですか」
『ええ……あの、の、沢井さんの奥さんの事件です。壁からバッグがたっていう……』
松永の背筋がピンと伸びた。
「あなたのお名は?」
『森といいます。、諏訪の周辺で個タクシーの運転をしていました。あの……平成のの、朝方のことです』
松永はメモ帳を引き寄せた。
「続けてください」
『あののけ方半頃でした。いがていて、をらせていたら、旧のの角で、柱にしがみつくようにしてっている若い女性を見かけたんです』
森の声は、の記憶を繰り寄せるように震えていた。
『ただ事じゃない様子だったので、を寄せました。乗ってきた彼女を見て、私は肝をやしましたよ。顔が、のように真っで……胸元をで押さえながら、激しく咳き込んでいたんです。そして……から、真っ赤な血を吐いていました』
松永の息が止まった。
「血を……吐いていたんですか?」
『はい。シートを汚しちゃいけないとったのか、彼女、自分のハンカチで必に元を押さえていて……でも指のから血が垂れて。私はすぐに「病院へきましょう、信州学病院へ連れてきます」と言ったんです』
「それで、病院へったんですか?」
『いいえ!』
森は語気をめた。
『彼女、泣きながら首を振るんです。「病院にはかないでください。
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お願いですから、あそこへ連れてってください」って』
「どこへ連れてったんですか」
『諏訪です。「が初めて会った所へってほしい」と、そう言ったんです』
松永のので、バラバラだったピースが猛烈な勢いで噛みっていく。
「それで、どうしたんですか!」
『諏訪の、側のさびれた畔……葦がい茂っているベンチのくでろしました。運賃も受け取れませんでしたよ、あんな状態の娘さんから。「丈夫ですか、救急を呼びましょうか」と何度も言ったんですが、「し休めば丈夫ですから、お願いですから放っておいてください」と々とお辞儀をされて……。気になって、しれた所からを止めて見ていたんですが、彼女、ベンチに腰掛けて、じっとを見つめていました。そのうち、がひどくなって見失ってしまって……私は、そのままをしてしまったんです』
森は声を詰まらせた。
『翌、警察に「血を吐いた若い女性を乗せた」と話したんですよ! でも、当の当直の若い警官に「ああ、の報ね、聞いておきます」と軽くあしらわれてしまって……。でも今のニュースを見て、あのの女性が、あの壁のバッグの嫁さんだったんじゃないかと……!』
松永は受話器を叩きつけるように置き、取調の廊で項垂れていた俊平の元へった。
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「沢井さん! あなたと綾乃さんが、初めて会った所はどこだ!」
俊平は驚いて顔をげた。
「え……? す、諏訪の……狐の祠のくの、古いベンチです。あそこで、のに……」
「諏訪だ」
松永は捜査員たちに向かって鳴った。
「鑑識と隊を呼べ! 諏訪の岸、狐の祠周辺の域を捜索する!」
*
を同じくして、警察署の鑑識課から松永へ緊急の報告が入った。
壁のから見つかったバッグの底、張り付いていた記帳の最のページの復元に、科学捜査研究所が成功したというのだ。
ファックスで送られてきたその面には、かすれた、しかし力い綾乃の跡が、鮮に浮かびがっていた。
『俊平さんへ
ごめんなさい。
私の血まみれの姿を、あなたに見せることはできません。
婚旅の直、病院で血病が再発したと告げられました。
もうくはきられないそうです。
あなたと過ごした週は、私のので、いちばん幸せな奇跡のようなでした。
でも、あなたのこれからのいを、私の病気と病で壊したくありません。
あなたが背負うはずのない荷を、残したくありませんでした。
庭で倒れてしまって、バッグがくて、どうしても持っていけそうにありません。
汚してしまってごめんなさい。
どうか私のことは忘れて、幸せになってください。
あなたに会えて、本当によかった。
さようなら。
綾乃』
報告を読みげた松永の声が、震えていた。