"19年間の嘘を暴いた1枚のDNA鑑定書" 第11話
彼はよろめきながらちがった。
濡れたスーツから滴り落ちる滴は、まるでこれから彼が流すであろう血の涙のように見えた。
に再び乗り込んだ宗は、バックミラーに映る自分の顔を見た。
そこにはもう、かつての優柔断で臆病だった神崎宗はしなかった。
彼はハンドルを指の関節がくなるほどく握りしめ、歯をい縛りながらく、しかしはっきりと誓った。
「そうだ。おたちの言う通りだ。許しは言葉で乞うものじゃない」
真由たちに許してもらえないのなら、せめて彼女たちの無をらすために自分にできる全てをしよう。 たとえ、その裁きの対象が自分の母親と妻であったとしても。
もはや彼は、止まるつもりはなかった。
松濤の自宅へと向かうは、ひどくく、そして険しくじられた。
しかし宗のは、かつてないほどたく静かに研ぎ澄まされていた。
その瞳はもはや経営者のものではなく、復讐に燃える処刑の瞳だった。
松濤にある神崎の豪邸のなをくぐった、宗の全を包んでいたのはに濡れたスーツのなたさだけではなかった。
彼のの奥底から湧きがる、氷のように徹な決が、その魂までも凍てつかせていた。
玄関ホールにを踏み入れると、政婦が驚いた顔で駆け寄ってきた。
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「旦様、ずぶ濡れではございませんか。すぐにお呂の準備を……」 「必ない」
宗は政婦の言葉を遮り、い声で言った。 その声には切のが乗っていなかった。
普段の彼からは像もつかないその雰囲気に、政婦は息を呑み怯えたようにずさる。
宗は彼女を瞥もせず、濡れた革靴がてる気な音を響かせながら、まっすぐに自分の斎へと向かった。
斎に入り、鍵をかける。
彼は震えるでスーツの内ポケットを探り、防ケースに入れておいたUSBメモリを取りした。
玲奈から送られてきた『の真実』。
それは単なるデータではなかった。 彼の愚かな半を嘲笑い、そして同にこれから彼がむべき獄へのを示す羅針盤だった。
彼はウイスキーをグラスに注ぎ、気に煽った。 喉を焼くようなアルコールのさが、彼の考をわずかに鮮にさせる。
許しを乞うことさえ許されなかった。 真由の最の言葉が、彼の脳裏に繰り返しこだまする。
『あなたがすべきことは私たちので膝をつくことじゃない。あなたの隣にいるあの悪魔たちをあなた自ので裁くことよ』
玲奈のたい声もそれになる。
そうだ。その通りだ。 する者を信じず、真実から目を背け、怪物たちの甘言に踊らされ続けた罪。
その罪を償う方法は、もはやつしか残されていなかった。
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宗の瞳から、しみや悔といったがまるで潮が引くように消えていく。
そしてそのに残ったのは、質でたく、そしてどこまでも暗い、復讐という名のだった。
自分を欺き、真由のを獄に変え、そしてまだまれぬが子たちのすら否定したの悪魔。
は自分をみ育てた母。 もうは自分が妻として選び、隣で眠ってきた女。
そのをこので裁く。 それが自分が真由と子供たちに対して果たせる唯にして最の贖罪なのだと、彼は悟った。
真由たちに許してもらえなくとも構わない。 彼らの復讐を代する処刑となり、その汚れ役を全て引き受ける。
そして全てが終わった、自分もまたこの世から消えればいい。
宗はデスクの引きしから、もう何も使っていなかった古いノートパソコンを取りした。 会社のネットワークとは完全に切りされたオフラインの端末だ。
彼はそこにUSBメモリを差し込み、保されていた音声ファイルと映像データをいくつかのファイルに分けてコピーし始めた。
つは警察に提するための証拠として。 つはマスコミにリークするための暴報として。
そして最のつは……。
彼は作業を続けながら折、壁にかけられた族写真に目をやった。
そこに写っているのは、満面の笑みを浮かべる自分と、その隣でわざとらしく寄り添う美咲、そして傲な表で佇む母・芳。