"「貧乏人」と笑われた男" 第1話
「え、ちょっと待って。施設で育ったって、本当なんですか?」
神宮寺玲奈はにしていたワイングラスをテーブルへ戻し、信じられないものを見るように俺の顔を見た。都のホテルに入る級フレンチレストラン、その奥にある個には、料理のりと静かなクラシック音楽が漂っている。ところが彼女の声だけは、その落ち着いた空気を切り裂くように妙にきかった。
俺はの入ったグラスへ指を添えたまま、「ええ」と答えた。父は俺が物つくにをており、母はで俺を育ててくれたが、俺が5歳のに病気でくなった。それから12歳まで児童養護施設で暮らしたという話をした途端、玲奈の隣に座っていた母親の雅代まで、わずかに眉をひそめた。
「じゃあ、ご実というものは……」
「ありません。今はで暮らしています」
雅代は「あら、そう」と返したが、その声から先ほどまでの柔らかさは完全に消えていた。数分まで俺の仕事や趣についてに尋ねていた女性とは、別のようだった。テーブルの向こうで母娘が瞬だけ目をわせ、そのい線のに、言葉にしなくても伝わる何かがあった。
その、玲奈が元を押さえて笑った。
「ごめんなさい。でも、片親育ちで施設って……ちょっと像してなくて。桐先、何を考えてこのを私に紹介したんだろう」
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俺は返事をしなかった。笑われることそのものは、初めてではなかったからだ。学の頃にも「親なし」と呼ばれたことがあるし、学になってからは、施設の所をいた類を見た同級の親から「あまり付きわない方がいい」と言われたこともある。
だが、42歳になった今でも同じ言葉を聞くとはわなかった。
しかも目のにいる女性は、30歳をとうに過ぎただった。
「玲奈、言い方」
雅代は娘をたしなめたものの、本気で止める気はないらしい。むしろ俺に向き直ると、困った笑顔を浮かべながら「こちらにも事がありますので」と話し始めた。まるで玲奈の態度ではなく、俺が施設であることの方が、このの失敗であるかのような言い方だった。
「娘もそろそろ将来を考える齢ですから、やはり結婚となれば同士のお付きいになりますでしょう? ですから、ある程度は育った環境がい方の方が、お互い幸せなのではないかとうんです」
「育った環境ですか」
「ええ。価値観はどうしても違ってしまいますから」
穏やかな調だったが、はだった。族のいないは神宮寺にはふさわしくない、ということだ。俺は腹の底にたいものが沈んでいくのをじながら、それでもを表へさないようにした。
今回の事会は、俺が望んだものではない。
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学教授をしていた桐先から「度くらいと会ってみろ」と何度も勧められ、断り続けるのも悪いとって来ただけだった。俺は最初から、会社名も資産も肩きも相にはらせないでほしいと先へ頼んでいた。
理由は単純だ。
俺の名刺ではなく、俺自と話すに会いたかった。
目のの玲奈は、骨なほどその期待と逆のだった。
「ところで柊さん、さっきIT関係とおっしゃっていましたよね。具体にはどちらの会社なんですか?」
雅代が尋ねてきたが、俺は「決済関係の仕事です」とだけ答えた。すると玲奈は興を失ったようにスマートフォンを触り、「エンジニアみたいなじ?」と聞いてきた。俺が否定も肯定もしないでいると、彼女はますます勝に像を膨らませたらしい。
「収は? 600万くらい?」
「玲奈」
「だって事でしょう。結婚考えるなら聞くでしょ、普通」
その「普通」という言葉に、俺はしだけ笑った。
「玲奈さんにとって、と釣りっているかどうかは何で決まるんですか?」
彼女は質問の図が分からないという顔をしたあと、当然のことを説するように指を折った。柄、学歴、職業、収入。それから親の社会位までにしてから、「って結局そういうものでしょう」と言った。
「努力とか性格とか、そんなものはその次。まれた環境が違いすぎるとは、無理して付きってもお互い幸になるだけだとう」