みかん小説
本棚

"月8万円の町工場社長" 第4話

子さんは「伺います」と即答した。

5、彼女は本当にでやって来た。

の匂いにも顔をしかめず、田辺さんが削っている肉部品を覗き込み、「これはチタンですか」と聞いた。棚に並ぶ何個もの治具を見て、それぞれが特定の加のためだけに作られたものだとると、そこからかなかった。

そして美代子さんが俺を「社」と呼んだことで、隠していた肩まで簡単にばれた。

帰り子さんはっていた。

「借はすぐおっしゃったのに、ご自分が社だということは隠されたんですね」

「断ってもらうつもりでしたから」

浦さん。それは私が決めることではありませんか?」

俺は答えられなかった。

「借ごと巻き込みたくない、と浦さんはおっしゃいます。でも、巻き込まれるかどうかを浦さんで決めて、私は何もらされない。それでは私を子ども扱いしているのと同じです」

その通りだった。

悪い条件だけ見せて、良い条件は隠す。それは正直ではなく、相に断らせるための誘導だった。

その夜、俺は初めて自分がこの数、何でもで決めてきたことを考えた。借も役員報酬もを続けることも、誰かを配させたくないという理由で勝に背負ってきた。

そして3

黒いに止まった。

広告

りてきたのは40歳の男だった。

、経営企画部の黒川と申します」

細い鏡をかけた黒川は名刺を渡し、械や従業員数を通り確認したあと、事務所で突然こう言った。

浦社。個で800万円ほどのお借り入れがありますね」

えた。

「どうしてっているんですか」

「必な範囲で確認しました。子さんとお会いになっていることもじています」

黒川は俺の目を見たまま、鞄から枚の資料を取りした。

「率直に申しげます。子さんとの話からを引いていただけませんか」

俺は何も答えなかった。

黒川は続けた。

「その代わりと言っては何ですが、浦製作所を規協力として推薦できます。数千万円規模の仕事になる能性があります」

のうちの売は4000万円ほどだった。

数千万円。

料をげられる。

設備を直せる。

田辺さんの妻の治療費にも余裕がる。

800万円も、いずれ返せる。

黒川は俺が計算するを与えるように、しばらく黙った。

そして最に、もう枚のを机へ置いた。

そこには、が来度から注する予定の部品覧が記されていた。

子さんを諦めていただけるなら、私がこの案件を浦製作所へ回します。逆にこのままお付きいを続けるなら、私は社内で御社との規取引に反対します」

広告

その瞬、俺はようやく理解した。

黒川は俺の借を調べたのではない。

俺がその800万円と、子さんのどちらを取るなのか。

試しに来たのだ。

数千万円という数字を見たかなかったと言えば嘘になる。浦製作所のようなさなにとって、社からそれだけの注文が定して入れば経営は変する。俺の借だけではなく、田辺さんたちの与、古くなった設備、今の採用まで気に展望がける額だった。

黒川は俺が迷っているとったらしく、「経営者ならな判断をされるといます」と静かに付け加えた。俺は覧表をもう度見てから、机のへ戻した。

「黒川さん。うちは仕事が欲しいです。本当に、喉からるくらい欲しい」

黒川の表がわずかに緩んだ。

「賢なご判断です」

「でも、その仕事は部品を買っていただく仕事じゃないと困ります」

黒川の笑みが消えた。

「どういうでしょう」

「今の話は俺が黙る代ですよね。うちの職が削ったものの値段じゃない。浦製作所が売れるのは部品だけです。それ以は売り物にしていません」

の奥で田辺さんの械が止まっていた。聞こえているのだろうが、誰もを挟まない。

黒川はしばらく俺を見たあと、資料を鞄へ戻した。

「承しました。おを取らせました」

彼が帰ったあと、田辺さんが事務所の入へ来た。

「社。あれ、断ってよかったのか」

「よくないです」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: