"月8万円の町工場社長" 第2話
名は子。
そのにかれた父親の勤務先を見た瞬、俺は釣を机へ戻した。
「無理ですよ」
「まだ何も説してないだろう」
「株式会社精って、あの精ですよね」
神奈川に本社を置く械メーカーで、精密検査装置の分野では業界でもらないはいない。従業員数も売も浦製作所とは比べものにならず、その社令嬢と借800万円の町社では、どう考えても釣りわなかった。
ところが沢渡さんは、湯呑みを両で持ちながら静かに言った。
「先方のお父さんから頼まれたんだよ。娘に会わせたい男をらないかって聞かれて、最初に浮かんだのが君だった」
「どうして俺なんですか」
「正さんの息子だからだ。それじゃりないか?」
父の名をされるとかった。沢渡さんの顔を潰したくもないし、父が40くかけて築いた付きいを、自分の都だけで切るのも嫌だった。
だから俺は、つだけ決めた。
会う。
ただし、自分を良く見せることは何もしない。
借があることも、貯がないことも、休みがほとんどないことも聞かれれば全部答える。それで向こうから断ってもらえば、沢渡さんの顔もち、俺も余計な期待を持たずに済む。
そのの俺は、本気でそれが番きれいな終わらせ方だとっていた。
お見い当の朝も、俺はいつも通りへた。
広告
午からすると美代子さんへ伝えると、彼女は俺の顔をしばらく見たあと、「珍しいですね」と言っただけで何も尋ねなかった。ところが田辺さんには沢渡さんから報が漏れていたらしく、旋盤ので「社、今は見いだってな」と笑われ、島まで作業のを止めてこちらを見た。
俺は昼過ぎにアパートへ戻り、父が昔取引先の式典で度だけ着た紺のジャケットを引っ張りした。肘はしり、肩幅も俺にはわずかにきい。靴は3履いた革靴のまま、夜は見積を作って午2まで起きていたので目のには隈もあったが、むしろ都がいいとった。
横浜のホテルへ着いたには、自分の違いさを嫌でもいらされた。最階の本料理は廊まで静かで、い絨毯に古い靴が沈むたび、俺はく帰りたくなった。案内された個には沢渡さんと写真の女性がすでに座っており、俺を見ると子さんはちがって丁寧にをげた。
「子と申します。本はありがとうございます」
写真より落ち着いた印象だった。価そうな装飾品をにつけているわけでもなく、着物も淡いで、話し方にも社令嬢らしい威圧はない。俺の古いジャケットも擦れた靴も確実に見えているはずなのに、そのことで表を変えることもなかった。
広告
最初は沢渡さんがに入り、族や仕事について当たり障りのない話をした。俺は「町で属加をしています」とだけ答え、自分が社であることは言わなかった。子さんは「どんな部品を作られるんですか」「加はいんですか」とった以に細かく聞いてきたが、俺が父の話になると数を減らしたのを察すると、それ以踏み込まなかった。
子さん自は精の経営企画部で、協力との取引条件を見直す仕事に関わっているという。
「うちは自社だけでは物を作れません。のさんに助けていただいていますから」
その言い方がしだった。企業側のが請企業の話をする、俺がにするのは「コスト」「納期」「効率」という言葉ばかりだったからだ。社の娘だから言葉を選んでいるだけかもしれないとい、そのはく考えなかった。
料理が品ほどんだところで、沢渡さんが「ちょっと話してくる」と席をった。どう考えてもきりにするための芝居だったが、止めるもなく襖が閉まり、部には俺と子さんだけが残された。
窓の向こうには港のかりが点々と浮かんでいた。子さんは湯呑みを度置き、し言いづらそうにしたあと、まっすぐ俺を見た。
「失礼ですが、浦さんは貯をお持ちですか?」
来たとった。
俺にとっては、むしろ望んでいた質問だった。