"年商一兆円の父にワインをかけた婚約者" 第14話
写真に語りかけると、く温かい声で「よくやっている」と返ってくるような気がした。
仕事を終えた綾は、役員専用エレベーターでタワーのへと向かった。 そこは宗郎が、最もしていた空庭園だった。 よいが吹き抜け、く京湾が夕に照らされて黄に輝いている。
「綾さん」
背から穏やかな声がかけられた。 振り返ると、頃なグラスと本のワインボトルを持った男性がっていた。
瀬尾拓。 宗郎の最の直属の部であり、現はグループの専務として、そして綾の公私にわたる最も信頼できるパートナーとして彼女を支えている青だった。 かつての圭吾のような派さや饒舌さはない。けれど、どんなも綾の言葉に誠実にを傾け、自らので現を駆け回る、実直で温かい男だった。
「拓さん。どうしたの、こんなところで」
「のワインセラーを理していたら、これが見つかりましてね」 拓が掲げたのは、しラベルの褪せた代物の赤ワインだった。
「会が、『綾が本当にを通わせられる伴侶を見つけたに、でけなさい』と預けてくださっていたものです」
ボトルの首には、宗郎の几帳面な跡で、さなメッセージカードが結びつけられていた。
『する綾へ。
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おの選んだを、誇りにう』
綾の界が、瞬くに滲んだ。
あの、フレンチレストランで無残に浴びせかけられた赤ワイン。 それは父に対する劣な侮辱の象徴だった。 けれど、父が本当にに秘めていたのは、そんな憎しみをらすことではなく、ただただ娘の本当の幸せを願う、どこまでもく温かい祈りだったのだ。
「……けましょうか」 拓が優しく微笑んだ。
「うん。お父さんも、きっと緒にんでくれるわ」
は並んでウッドデッキのベンチに腰掛け、夕暮れに染まりゆく京の空を見げた。 空は朱から群青へと、息をむほど美しいグラデーションを描いている。 かつてこの所から父と見た夜景は、徹な戦いのだった。 けれど今、隣にある温もりとともに見つめる景は、どこまでも優しく、どこまでも穏やかだった。
「私ね、決めたの」 綾はグラスに注がれたの雫を見つめながら、静かに語りかけた。
「扶桑グループを、もっときくする。でもそれは、誰かを見ろしたり支配するためじゃない。理尽に踏みにじられそうな誰かを守るための力として。お父さんが遺してくれた正義を、私なりのやり方で、最まで守り抜いていくわ」
「ええ。僕もをかけて、綾さんを支えます」
拓がそっと差ししたが、綾のを包み込んだ。
その確かなのぬくもりが、たかった過の記憶を、優しいで塗り替えていく。
痛みをったからこそ、の痛みに寄り添えるさをに入れた。 見に惑わされず、魂の尊厳を守り抜くことの尊さをった。
夕の空に、番が静かに瞬いた。 まるで空のから、宗郎が悪戯っぽくウインクをしてくれたかのように。
綾はグラスをへと掲げ、さく微笑んだ。 誰も見た目で測られず、誰も誇りを奪われない、しい未来へと向かって。