"年商一兆円の父にワインをかけた婚約者" 第13話
「神埼圭吾。篠原宗郎氏に対する殺未遂、並びに嘱託殺の容疑で逮捕する」
カチャリ、とたい錠が両首に嵌められた瞬、圭吾の膝が折れ、に崩れ落ちた。
「ひ……っ、ち、違う……! 僕はらない! 母さんが……母さんがやれって言ったんだ!」 見苦しく責任を押し付けようと叫ぶ圭吾の横で、奥の寝から貴恵が引きずりされてきた。
「神埼貴恵。あなたにも同容疑の共謀共同正犯、並びに業務横領の容疑で逮捕状がている」
「しなさいよ! 私が誰だか分かってんの!? クレスト百貨の取締役よ! こんな無礼が許されるとって――」
喚き散らす貴恵の腕にも、無慈にの錠が打ち込まれた。 マンションのエントランスからパトカーへと押し込まれる親子の姿は、待ち構えていた報陣のカメラによって余すところなく撮され、朝の全国ニュースのトップを飾った。
そのにわれた裁判は、迅速かつ苛烈を極めた。 巨額脱税、横領、請法違反、そして殺未遂。 弁護側は状酌量を求めて必に減刑を訴えたが、宗郎側が提したかぬ証拠の数々と、世論の厳しいりがそれを許すはずもなかった。
判決公判の。 法廷に響き渡った裁判の声は、徹だった。
『主文。被告・神埼圭吾を懲役に処す。被告・神埼貴恵を懲役に処す。
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いずれも執猶予は付さない』
実刑判決。 圭吾はそのに崩れ落ちて号泣し、貴恵は目を剥いて失神した。 富と虚栄に塗れた親子のが、完全に、そして永に閉幕した瞬だった。
刑務所へと向かう護送の窓から、貴恵はぼんやりと空を見げていた。 鉄格子の隙から見える空は、あのと同じように青く澄み渡っていた。
脳裏に蘇るのは、ホテルの寄せに現れた、あのみすぼらしいの国産セダン。 そして、擦り切れた革靴を履いた初老の男。
(もし、あの……)
もし、の古さやスーツのさでを判断しなかったら。 もし、あの穏やかな佇まいの奥にある柄に、ほんのしでも敬を払っていたら。 あの方こそが、本物の頂点につだったのに。
頬を筋の涙が伝い落ちたが、それはあまりにも遅すぎる悔だった。 い鉄の扉が閉ざされ、彼女たちの自由な世界は永に失われた。
*
事件から、数の歳が流れた。
かつて栄華を極めたクレスト百貨の本ビルは解体され、いまは緑豊かな複商業施設へとまれ変わっていた。 神埼という名をにする者は、もはや誰もいない。 傲のに胡をかいた者たちの末など、激の京においては過性の化に過ぎなかった。
柔らかなの陽がり注ぐ午。 扶桑タワーの最階にある総裁の窓からは、変わることなく京の並みが望できていた。
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「総裁、次期都発プロジェクトに関する取締役会の資料です」
秘となった倉林が、恭しくデスクに類を置いた。
「ありがとう、倉林さん」
類を受け取ったのは、品のあるチャコールグレーのパンツスーツにを包んだ、凛とした差しの女性――篠原綾だった。
あのから、綾は変わった。 自分の世らずと甘さが、父を危険に晒してしまったという痛の悔が、彼女を芯からくさせた。 父の元で経営のイロハを現から叩き込み、汗を流して働き、従業員たちの声にを傾け続けた。 そして、志半ばで静かに息を引き取った宗郎のを継ぎ、扶桑グループの代表取締役総裁に就任したのだ。
宗郎の最期は、驚くほど穏やかだった。 『綾、は見た目ではない。何を持っているかではなく、どうきるかだ。おはもう、それをっている』 そう言い残し、眠るように逝った父の葬儀には、政財界の鎮だけでなく、父がひそかに支援し続けていた児童養護施設の子どもたちや、名もなき請けの職たちが全国から集まり、涙を流して見送ってくれた。 それこそが、父が涯をかけて築きげた「真の財産」だった。
デスクの片隅には、古い写真てが置かれている。 あせた国産セダンので、ぎこちない笑顔を浮かべる宗郎の写真。
「お父さん、私、ちゃんとやれてるかな」