"年商一兆円の父にワインをかけた婚約者" 第10話
その、会の照がすっと落とされた。 歓談の声が止み、張り詰めた静寂が広を支配する。
メインステージに本の鋭いピンスポットライトが当てられ、司会者の厳かな声がマイクを通して響き渡った。
『皆様、らくお待たせいたしました。今宵、本レセプションを主催いたしました、扶桑グループ最経営責任者、並びに扶桑慈善財団理事より、皆様にご挨拶を申しげます。……盛な拍でお迎えください。扶桑グループ総裁、篠原宗郎』
割れんばかりの拍が巻き起こった。
「篠原……?」 圭吾が眉をひそめた。
「まあ、よくある苗字ですわね」 貴恵は値踏みするようにステージを見つめた。
ステージ袖から、ゆっくりとの男が歩みてきた。
完璧な仕ての最級タキシード。 髪を隙なく撫でつけ、彫りのい顔ちにはの修羅をくぐり抜けてきた者だけが宿す、圧倒な威厳と徹な性が刻まれている。 男がピンスポットライトの央、演台のにち、ゆっくりと会を見渡した。
その瞬――。
神埼貴恵のから、シャンパングラスが滑り落ちた。
ガシャン、と甲い破壊音が静まり返ったフロアに響いたが、誰として貴恵を振り返る者はいなかった。 すべての席者の線が、壇の男に釘付けになっていたからだ。
「う……そ……」
貴恵の喉から、空気の抜けるような掠れ声が漏れた。
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圭吾はを半きにしたまま、のように直していた。 織は両でを塞ぎ、恐怖のあまり膝をガクガクと震わせている。
壇にっていたのは。 何千もの財界が息を呑んで見げるその男は。
、ボロボロの国産セダンからりてきて、物のスーツを着てをげ、 貴恵から「貧乏」「ペテン師」と罵倒され、 顔面に赤ワインをぶちまけられた、あの綾の父親――篠原宗郎そのだった。
『皆様、こんばんは。扶桑グループの篠原です』
マイクを通した宗郎の声は、く、く、な鐘の音のように会の隅々まで染み渡った。 その声には、あのフレンチレストランで見せていた温さの欠片もなかった。
「嘘よ……嘘よ嘘よ嘘よ……!」 貴恵は自分の肩を抱きしめ、爪が皮膚にい込むほどく握った。
「同姓同名のに決まってるわ! あんな、あんなみすぼらしい爺さんが、扶桑グループの総裁なわけがないじゃない……!」
「母さん……」 圭吾の声は完全に震え、歯の根がわなくなっていた。
「あいつだ……あいつだよ……! あの目……僕たちを見ろしていた、あのたい目だ……!」
壇の宗郎は、会のざわめきをに介さず、静かにスピーチを続けた。
『通常、こうしたでは企業の業績や未来への展望を語るのが通例でございますが、今夜はし趣向を変えさせていただきます。
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私は半世紀にわたり事業を営んでまいりましたが、企業経営において最も排除すべきものは、正と傲、そして者の尊厳を踏みにじる卑劣さであると信じております』
宗郎が片を軽くげると、ステージ背の巨なLEDスクリーンが点灯した。
そこに映しされたのは――見慣れたクレスト百貨のエンブレムだった。
貴恵の息が止まった。
『、歴史ある板の裏で、極めて悪質な正をねてきたある企業の実態を、皆様と共いたしたくじます』
スクリーンの映像が切り替わる。 複雑に入り組んだ送のフローチャート、ケイマン諸島に設されたペーパーカンパニーの登記簿、そして裏帳簿のスキャンデータ。
『クレスト百貨。同社専務取締役・神埼圭吾氏、並びに取締役・神埼貴恵氏が主導した、過における総額億円にのぼる架空循環取引、並びに巨額の脱税作の記録でございます』
会から鳴りのようなざわめきが巻き起こった。
「な、何を……っ!?」 圭吾が鳴をげようとしたが、声にならなかった。 周囲の財界たちが、斉に神埼親子から距を取り始める。 つい先ほどまで笑いを浮かべていたの支や取引先の社たちが、まるで汚物を見るかのような酷な線を突き刺してくる。
宗郎の声は、を切交えず、淡々と断罪の言葉を紡ぎ続けた。
『さらに、同社がにわたりってきた、納入業者に対する当な協賛の、優越位の乱用による請法違反の証拠。