"年商一兆円の父にワインをかけた婚約者" 第7話
*
首都速を抜けたタクシーは、本経済の枢である町のオフィスへと滑り込んだ。 然とそびえつ超層ビル群のでも、圧倒な威容を誇る階建ての巨塔――扶桑タワーの寄せにする。
黄の鳳凰が翼を広げたエンブレムが、エントランスの巨な御に刻まれている。 世界数のメガコングロマリット、「扶桑グループ」の本社ビルだった。
綾がおずおずと回転扉をくぐると、広なエントランスホールにはピンと張り詰めた静寂が漂っていた。 受付へ向かおうとした瞬、に駆け寄ってくるがあった。
「お嬢様、お待ちしておりました」
々とをげたのは、先ほどホテルで父の傍らにいた男、倉林だった。 ホテルでの焦燥は消えり、完璧なエリート秘の顔に戻っている。
「倉林さん……父は?」 「最階の会でお待ちです。どうぞこちらへ」
倉林が黒いカードキーをかざすと、役員専用のプライベートエレベーターの扉が無音でいた。 力をじさせない速度で、階数表示が信じられない勢いでねがっていく。
階。 扉がいた先は、音が完全に吸い込まれる毛のい絨毯と、壁に掛けられた美術館級の絵画が並ぶ回廊だった。 倉林がな両きの扉をノックする。
「会、お嬢様をお連れいたしました」
広告
「入れ」
から聞こえてきたのは、聞き慣れた、けれど今まで聞いたことのないみと威厳を帯びた声だった。
扉がかれる。 広な部の奥、ガラス張りの壁面に広がる京の夜景を背にして、巨なマホガニーのデスクに座る男がいた。
ワインで汚れた物のシャツは脱ぎ捨てられ、最峰の職が仕てたダークグレーのスリーピーススーツを完璧に着こなしている。 髪をオールバックに撫でつけ、デスクのに組まれたからは、絶対な権力者だけが放つ徹な覇気が漂っていた。
「お父さん……」
綾の声が震えた。 そこにいるのは、違いなく父だった。 だが、自分がっていた「田舎のの良いお父さん」の姿は、どこにもなかった。
宗郎は娘の姿を見ると、すっと目元を緩め、ちがった。
「綾、無事だったか」
その温かい声を聞いた瞬、張り詰めていた糸が切れ、綾はそのに崩れ落ちるように泣き崩れた。
「ごめんなさい……っ! お父さん、ごめんなさい! 私が馬鹿だったの! 圭吾さんのことも、あのたちのことも何も見抜けないで……お父さんにあんな酷いいをさせて……!」
宗郎は歩み寄り、膝をついて娘の肩を優しく抱き起こした。
「泣くことはない。おが謝る必など、何ひとつないんだ」 「でも……っ!」
「私はおに言ったはずだ。は見かけによらない、本質を見なさい、とな。
広告
だから私は、おがになるまで、自分が扶桑グループのであることを隠し、福岡のさな会社で育てた。や柄に群がるハイエナではなく、おというそのものをしてくれる男を見つけてほしかったからだ」
宗郎はきなで、綾の涙を拭った。
「おは騙されたのではない。相の化けの皮を、結婚するに剥がすことができたんだ。それだけで、今の来事には分な価値があった」
「お父さん……あのたちに、復讐するの……?」 恐る恐る尋ねる綾に、宗郎はふっと線をした。
その横顔には、先ほどまでの優しい父親の表はなく、百戦錬磨の酷な経営者の顔が浮かんでいた。
「復讐ではない。これは教育だ。……いや、社会な制裁だな」 声から切のが消えていた。
「彼らは踏み越えてはならない線を越えた。の尊厳を踏みにじり、己の保のために嘘を並べててを陥れようとした。その罪のさを、彼らの信じる『と権力』のルールに従って、骨の髄まで教えてやる必がある」
「私に……何かできることはある?」 宗郎は首を横に振った。
「おは何も配しなくていい。傷ついたを休め、自分のをを向いて歩みなさい。あとはすべて、の仕事だ」
宗郎がデスクに戻り、インターホンを押した。 「倉林、入れ」
扉がき、倉林がタブレットをに部へ入ってきた。
「会、ネットの状況です。ホテルのロビーで撮された画がSNSで拡散され始めております。