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"廊下の清掃員が紡ぐ奇跡のメス" 第8話

……私に、メスを握らせてくれますか」

ハミルトンは顔をげ、桐の決に満ちた瞳を見た。そして、切の躊躇を捨てて叫んだ。 「第を即解放! 肺技師を叩き起こせ! 私が第を務めます! ……桐、どうか、この患者をお救いください!」

形勢は、完全に逆転した。 清掃員の老が、全米屈指の名病院の最権威たちを従え、の淵へと歩みした瞬だった。

術棟・第。 そこは、最鋭の無灯と次元術イメージング装置が鎮座する、医療科学の頂点とも言える空だった。 しかし、央の術台を取り囲む数名のスタッフたちのに流れる空気は、これまでこの部われたいかなる術とも異なっていた。

スクラブ(術着)に着替えた桐が、自ドアを背で押しけて入ってきた。 青い作業着を脱ぎ捨て、滅菌された濃紺のに纏ったその姿は、数分の猫背の清掃員とは完全に別のものだった。両肩は自然に引かれ、鋭利なが無灯のね返している。

器械護師のが震えていた。桐はそのち、無言でを差しした。 「番メス」

く響くその声に、護師は息を呑みながらメスを渡した。 桐はメスの柄を握った。 その瞬――、彼を苛み続けていた悪が、蓋の奥で鎌首をもたげた。

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たい鉄の触。指先が、瞬だけピクリと痙攣しかけた。 (翔太君……) の面が脳裏をよぎる。拍計のけたたましいアラームが、の静寂となりう。

「先……?」第の位置についたハミルトンが、桐元の微かな直に気づき、声で問いかけた。 桐は目を閉じた。呼吸。く、肺の底に気を溜め込み、そして吐きす。

(逃げるな。目ので消えようとしている命から、もう度と目を背けるな)

が目を見いた、指先の震えは完全に消えっていた。 「皮膚切を始める。胸骨正、鋸を用しろ」

メスが、ウェリントン議員の胸骨の正線に当てられた。 スッ――。 絹を引き裂くような微細な音とともに、ミリの狂いもなく皮膚と皮組織が切された。血は驚くほどない。気メスによる凝固と切のタイミングが神業致しているため、術野が切血で濁らないのだ。

胸器」 骨鋸によって切断された胸骨に属製の胸器がかけられ、ゆっくりと押し広げられる。 わになった縦隔の奥で、ウェリントン議員の臓は、青黒く鬱血し、微細に痙攣()を繰り返しながらの淵を漂っていた。筋の部分が虚血によってを失い、肉のような鉛に変し始めている。

肺、送血・脱血カニューレ挿入完! 体循環始します!」

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学技士のコールとともに、巨肺装置が音の唸りをげ、血液がチューブを満たしていった。 「止液注入。筋保護を始」 たい保護液が冠脈に流し込まれ、痙攣していた臓が完全にそのきを止めた。無質なフラットラインがモニターに描かれる。ここからが、との極限の戦いだった。

内胸脈の剥に入る。顕微鏡を」 桐の指示により、井から型の術用顕微鏡がろされた。 ここからが、伝説の技術の真骨頂だった。 胸壁の内側をる内胸脈は、直径わずかミリメートルからミリメートル。周囲の微細な組織を傷つけることなく、本の血管として美しく遊させるには、通常であれば熟練の科医でも分以する。

しかし、桐元は、まるで回しの映像を見ているかのようだった。 の極細鑷子(ピンセット)がの速さで組織を把持し、のマイクロ剪刀がミクロン単位の精度で筋膜を剥していく。迷いが切ない。血管の、分枝の結紮、そのすべてがつの流れるような音楽のように連続していた。

「信じられない……」 第を務めていたリーが、マスクので呻いた。 「剥した……わずか秒……。通常の分のだ……」

は額の汗を拭うことすら求めず、顕微鏡のピントを虚血に喘ぐ冠枝(LAD)へとわせた。

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