"十二年前、泥水に捨てられた私" 第13話
ただ、完全に切りされた、い世界のれなを見た――それだけのだった。
そのだった。
「けてくれ! 頼む、奈緒に……奈緒に会わせてくれ!!」
ラウンジのな扉ので、警備員と押し問答をするみっともない声が響いた。
ドカン、と扉が乱暴に押しかれ、転がり込むようにしての男が侵入してきた。
髪を振り乱し、ネクタイは千切れかけ、い酒の匂いをプンプンと漂わせた隆司だった。
「奈緒……! 奈緒ぉっ!」
内の空気が瞬で凍りついた。
圭吾は即座に奈緒と子供たちのにちはだかり、氷のように徹な声で告げた。
「隆司さんですね。ここは関係者以ち入り禁止です。警備員、すぐに連れしなさい」
「待ってくれ! 頼む、話を聞いてくれ!」
隆司は駆け寄ろうとしたが、駆けつけたの屈なホテル警備員に両腕を羽交い締めにされた。
それでも隆司は必に顔をげ、圭吾の背にいる奈緒を見つめて、恥も聞もなく叫んだ。
「奈緒! 俺が悪かった! 俺が全部違っていたんだ!」
隆司は警備員のを振りほどこうと暴れ、そのままに膝から崩れ落ちると、理のに額を何度も擦りつけるようにして座をした。
「頼む……もう度、俺とやり直してくれ! おがいないと、はもう駄目なんだ! 翔太は言うことを聞かないし、は借だらけで倒産寸なんだよ! おがいた頃は、もく回っていたじゃないか! おが必なんだ、奈緒!」
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自分勝極まりない、保と都だけの懇願。
奈緒は圭吾の背から静かに歩へた。
にいつくばるれな男を、の切こもっていない、ややかな瞳で見ろす。
「……お言葉ですが、さん。私はもう、あなたのっているではありません」
「奈緒……!」
「あなたが求めているのは私ではなく、の都のいい召使いでしょう。文句も言わず、理尽に耐え、あなたの名を支えるだけの無料の労働力。申し訳ありませんが、その役目はに謹んで辞退させていただきました」
凛とした奈緒の拒絶に、隆司は息を詰まらせた。
だが、男の執着は醜くもさらに暴した。
隆司は血った目を、奈緒の隣につ歳の女・紬に向けたのだ。
「紬……! そうだ、紬! おは俺の娘だ! 俺の血を引いているんだぞ! 父親に会いたかっただろう!? お父さんと緒に、に戻ろう!」
血縁という最の蜘蛛の糸に縋り付こうとする隆司。
その瞬だった。
それまで奈緒の背で静かに様子を見守っていた紬が、すっとにみた。
歳とはえないほど落ち着いた、性と気品に満ちた佇まい。
紬はにいつくばる実の父親を、まるで端の汚れたでも見るかのように徹に見ろすと、鈴を転がすような澄んだ声で、静かに問いかけた。
「失礼ですが……どちら様でしょうか?」
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その言は、どんな罵詈雑言よりもく、残酷に隆司の臓を貫いた。
「え……? つ、紬……? 俺だよ、おの本当の父親だぞ……?」
紬の表には、りも揺も、れみすら浮かんでいなかった。
ただ、純粋で絶対な「拒絶」だけがあった。
「私の父は、そこにっている神崎圭吾、ただです」
紬は切の迷いなく、圭吾を見げて誇らしげに微笑んだ。
「物ついたから、私を本当の娘として無償ので慈しみ、育ててくれた、世界でたったの自の父親です。……あなたのような見ずらずの方に、馴れ馴れしく名を呼ばれる筋いはありません。非常に愉ですので、お引き取りいただけますか?」
「が……っ、あ……」
隆司のから、を成さない掠れた呼吸が漏れた。
実の娘からの、そのものの完全な消。
さらに、歳になった男の陸が、紬の隣に並びって隆司を鋭く睨みつけた。
「あんたが、母さんを泣かせて追いした奴だな」
陸の声には、母親と族を守ろうとするい志が宿っていた。
「俺たちは、母さんを苦しめる奴を絶対に許さない。度と俺たちのに現れるな!」
子供たちの毅然とした言葉が、隆司の抱いていた浅ましいを完膚なきまでに打ち砕いた。
隆司は顔面蒼になり、魂が抜け落ちたようににへたり込んだ。
もはや、ちがる力も、叫ぶ言葉も残されていなかった。