"十二年前、泥水に捨てられた私" 第11話
会内の照がステージへと集する、ビュッフェコーナーで起きた異変が、静まり返ったフロアにやを浴びせた。
ガッシャーーーン!!
けたたましい陶器の割れる音が響き渡り、続いて、障りなの声ががった。
「ふざけんなよ! なんだよこの肉、めててマズいんだよ! 級ホテルとか言っといて、クソみたいな飯しやがって!」
招待客たちが斉に眉をひそめて振り返る。
そこには、サイズのわないブランドもののジャケットを着崩し、料理の載った皿をに叩きつけた翔太が、青ざめたウェイターの胸倉を掴んで威嚇している姿があった。
「翔太! 何やってるの、やめなさい!」
絵里が鳴をげながら駆け寄る。
「うるせえババア! せよ! こんな退屈な所、連れてきやがって!」
「お客様、のお客様のご迷惑になりますので、どうかお静かに……」
ホテルの警備責任者が数名で駆けつけ、暴れる翔太の腕を取り押さえる。
周囲のセレブリティたちから、あからさまな侮蔑と嘲笑の線が突き刺さった。
「まあ、なんてお儀の悪い……」
「どちらののお子さんかしら。あんな乱暴な子、このに相応しくないわね」
「申し訳ありません! 息子が……息子の持病の疳の虫が……!」
隆司と絵里は、真っ赤になってをげ続けたが、警備員たちは無慈に翔太を抱えげ、非常のドアの向こうへと引きずりしていった。
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最悪の醜態だった。
神崎会に取り入るどころか、会のVIPたちに「恥ずべき問題」として刻印されてしまったのだ。
隆司と絵里は、会の隅の柱のに隠れるようにして、肩を震わせて息を殺すしかなかった。
そのだった。
ステージのマイクが、静かにオンになった。
登壇した神崎圭吾が、会を見渡しながら、く落ち着いた声で語り始めた。
『皆様、本はが社の薬発記パーティーにお運びいただき、誠にありがとうございます。画期な難病治療薬がこうして結実いたしましたのも、ひとえに皆様方の温かいご支援の賜物と、より謝申しげます』
格式い挨拶に、紳士協定のような拍が送られる。
圭吾は呼吸置くと、表をふっとらげ、隣につのドレスの妻を見つめた。
『そして……今宵、皆様にどうしてもご紹介したい物がおります。私ののであり、が社を支える最の功労者、私の最の妻、奈緒です』
圭吾が優しくを差し伸べると、奈緒は歩へみて、会に向かって完璧に洗練されたカーテシー(礼)を披した。
その凛とした佇まいに、先ほどの騒を忘れさせるほどの惜しみない賛美の拍が沸き起こる。
柱のでそれを見ていた隆司の臓が、ドクンと嫌な音をてた。
(……奈緒? 今、あいつの名を……?)
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まさか。そんなはずはない。
世のに同じ名の女など、いくらでもいる。
自分に必でそう言い聞かせる隆司のに、圭吾の次の言葉が無慈に突き刺さった。
『実は……ここにいる私の妻は、今から、言葉では言い尽くせないほどの理尽と絶望を経験いたしました』
会のざわめきが、潮が引くように静まり返った。
誰もが、企業のトップが公式ので語るには異例すぎる告に、息を呑んでを傾けている。
『彼女は当、ある方の旧に嫁いでおりました。しかし……たったつの勝な理由によって、着の着のままでを追いされたのです』
圭吾の声には、静かだが鋼のようなりが込められていた。
『その理由とは――「継ぎとなる男の子を産めなかったから」。ただ、それだけでした』
――ドサッ。
隆司の隣で、絵里のからグラスが滑り落ち、カーペットのに鈍い音をててワインが広がった。
「嘘……でしょ……?」
絵里の唇が、血の気を失ってガタガタと震えている。
隆司もまた、全の血がの裏から抜けていくような悪寒に襲われていた。
旧。男の子を産めなかった。
そんな偶然があるはずがない。
だが、圭吾の容赦のない言葉は、逃げを塞ぐように続いた。
『彼女は、ヶにも満たない、未熟児でまれたばかりの娘を抱きしめ、砂りのがりしきる嵐の夜に、で塩を撒かれ、のに叩きされたのです』