"十二年前、泥水に捨てられた私" 第1話
都内屈指の最級ホテル、その宴会の井からは、数千個のクリスタルガラスが組みわされたシャンデリアが眩いを放っていた。
壁面に磨き抜かれた理が張り巡らされ、集まった政財界の鎮や企業の役員たちが、最級のシャンパンを片に歓談している。
その華やかな気から取り残された会の最果ての隅に、違いなほど縮こまった男女の姿があった。
何もに仕てたきりで肩のが擦り切れたスーツを着た隆司は、落ち着きなくネクタイを緩めたり締めたりを繰り返していた。その隣では、かつて流したデザインの、今となっては褪せてくすんで見えるワンピースを着た妻の絵里が、周囲の夫たちのややかな線に耐えかねたように俯いている。
「おい、翔太のやつはどこへったんだ」
隆司が苛ちを隠そうともせず、く濁った声で吐き捨てた。
「さっきからビュッフェの肉料理の周りをうろついてるわよ……。あの子、連れてくるべきじゃなかったんじゃないの? をるからあんなに暴れてたのに」
「馬鹿を言え。神崎ホールディングスといえば、今や本の医療・バイオ産業の頂点に君臨する怪物企業だぞ。うちのがき残るには、今の薬発記パーティーで神崎会に顔を売り、の名をしでも覚えてもらうしかないんだ。
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族総でをげて、誠を見せるのが筋だろうが」
「でも……」
絵里が何かを言いかけたその、会内の照がすっと落ちた。
音量のファンファーレとともに、ステージの央に純のスポットライトが照射される。
司会者の凛とした声がマイクを通じてスピーカーから響き渡った。
『皆様、変らくお待たせいたしました。今宵の主役でございます、神崎ホールディングス代表取締役会、神崎圭吾様。ならびにご族の皆様のご入です!』
割れんばかりの拍が会を揺らした。
壇へと続くレッドカーペットのに現れたのは、まるでの映画祭から抜けしてきたかのようなだった。
先につのは、完璧に仕てられた最級のタキシードをにまとい、圧倒なと落ち着きを漂わせる神崎圭吾。
そしてその隣で、彼の逞しい腕にそっとを添えている女性の姿に、会から息を呑むような嘆の声が漏れた。
のシルクドレスが、透き通るようない肌を鮮やかに引きてている。鎖骨のラインには何カラットあるかも分からない粒のダイヤモンドが品に輝き、綺麗に結いげられた艶やかな黒髪が、洗練された横顔を際たせていた。
その佇まいは、どこかの国の王妃をわせるほど気品に満ち、慈を含んだ微笑みを浮かべている。
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さらにのろには、仕ての良いスーツを着こなした凛々しい、憐なドレスを着た女たち、計の子供たちが、誇らしげに、そして幸せそうに並んで歩いていた。
隆司はその景を、どこかい世界の来事を見るように呆然と眺めていた。
「すごいな……。あれが神崎会の奥方か。きっと名たる名の令嬢なんだろうな。纏っている空気がまるで違う」
絵里もまた、羨望と嫉妬が入り混じった顔で呟く。
「も子供がいるなんて見えないわね……。あんな完璧な、体どうやったらに入るのかしら」
はまだ、にもっていなかった。
その壇で世界のをに浴びている絶世の美女こそが、の嵐の夜、自分たちがのにゴミのように投げ捨てた、あの「成瀬奈緒」そのであるということを。
なぜ彼女があの所にいるのか。
なぜあれほどまでに満ちりた笑顔を浮かべているのか。
その答えをるためには、計の針をの、あの絶望の夜まで巻き戻さなければならない。
*
に巨な穴が空いたかのような、激しい豪の夜だった。
切り裂くような稲がをく照らしし、瞬遅れて響きのような鳴が轟く。
「お願いします……! 浩平さん、けてください! 紬を……この子を病院に連れてかないといけないんです!」
奈緒は喉が裂けるほどの叫び声をあげたが、その声は叩きつける音と鳴にかき消され、誰のにも届かない。