"ATMで呼ばれた「奥様」" 第3話
「嫌いになったなら、ちゃんと言って」
そのだけ、悠馬の顔がいた。
眉にい皺が寄り、がわずかにいた。
何か言おうとしたのだとう。
けれど、閉じた。
そしてい声で言った。
「もう俺に関わるな」
その言で、私のの何かが折れた。
私は泣いた。
卓の角を掴み、みっともないくらい声をして泣いた。
9緒に暮らしたので、あんな泣き方をしたことはなかった。
悠馬はを伸ばさなかった。
慰めもしなかった。
ただ、目を見ていた。
しばらくして私は婚届を引き寄せ、自分の欄をいた。
最の画が震えてねた。
き直さなかった。
印鑑を押した、悠馬がさく息を吐くのが聞こえた。
それから彼はちがり、めた噌汁を温め直した。
自分の分だけ椀によそってみ、流しへ持っていって、自分で洗った。
9、悠馬がの椀を洗ったことなど数えるほどしかない。
今になってえば、あれが私たちの最の事だった。
私は夜のうちに着るものを鞄へ詰めた。
悠馬は隣の部にっていた。
伝わなかった。
玄関で靴を履いていると、背に彼が来た。
「これ」
差しされたのが、あのカードだった。
私はカードを見てから悠馬を見た。
彼は私の顔ではなく、玄関のたたきを見ていた。
「これで最だ。暗証番号は0427」
息をんだ。
「0427って……私たちの入籍じゃない」
広告
返事はない。
「なんで今、その番号なの?」
「覚えてるなら使える」
「そんな言い方しないでよ」
「使いたければ使えばいい」
悠馬は私ののひらにカードを置き、指を閉じさせた。
ほんの瞬、指先が触れた。
たいだった。
「ひどいだね」
私は暗い廊へ向かって言った。
返事はなかった。
そのままへた。
10のが首元へ入ってきた。
階段をり、角を曲がるまでは絶対に振り返らないと決めた。
それだけが、当の私に残っていただった。
角を曲がってからを止めた。
のひらをくと、青とのカードがあった。
《瀬美》
その名は、数には私のものではなくなる。
それでも私はカードを財布へ入れた。
婚届は翌朝、悠馬が役所へした。
私はその週のうちに苗字を戻した。
保険証、免許証、、携帯話。
窓をいくつも回り、そのたび「婚したので」とにした。
で最もつらい来事が、類のではただの氏名変更として処理されていく。
そのことが妙に苦しかった。
残りの荷物を取りに戻ったのは5だった。
悠馬は仕事にていた。
数まで自分のだった所へ、私はのへ忍び込むような気分で入った。
部は綺麗に片付いていた。
私が使っていた器は棚の角にまとめられ、洗面所の切れかけていた球はしいものに交換されていた。
広告
押入れをけた、しだけ違があった。
独代から持っていた段ボール箱が3つあったはずなのに、2つしかない。
をすぐにはいせなかった。
学代の写真。
昔の。
雑誌の切り抜き。
それから、何かをいた古いノート。
悠馬が捨てたのだろうとった。
私の物を勝に捨てるではなかった。
けれど、突然婚を言い渡すようなでもないとっていた。
もう何を考えても仕方がない。
私はそうって鍵を台所へ置き、誰もいない部に度だけをげた。
あの消えた段ボール箱がどこへったのかをるのは、3になる。
悠馬と会ったのは、私が24歳のだった。
勤め先のくに《実り》というさな喫茶があった。
カウンターが5席、窓際に4掛けの席が2つだけ。70歳を過ぎた無なマスターが1でやっていた。
父を学2のに急病でくしてから、私は々、1で泣ける所を探していた。
では母がもっとつらいとうと泣けなかった。
公園にはがいる。
自分の部は静かすぎた。
《実り》の番奥だけは、議と泣けた。
マスターは何も聞かなかった。
をし、空いた皿をげる。
それだけだった。
悠馬と最初に話したのも、そのだった。
彼は私と同じ替わり定をべていて、会計の、自分の伝票と違えて私の分を払おうとした。
「すみません」
まで赤くなって謝るので、私は笑った。
そこから、顔をわせるたび挨拶をするようになった。