"ATMで呼ばれた「奥様」" 第2話
通院をやめると決めた夜、悠馬は台所で皿を洗いながら言った。
「2でいいだろ」
「うん」
「2だって族だ」
振り返りもせず、同じ皿をいつまでも拭いていた。
私はその背を見ながら泣いた。
あのは、私が泣いているには絶対にこちらを見ないだった。
昔からそうだった。
私はい、それを優しさだとっていた。
だが婚してからの3で、何度も考えた。
見ないでいてくれることと、向きわないことは、もしかすると同じ所からまれていたのではないかと。
そんな悠馬から渡されたカードを、私は財布の番奥にしまい続けた。
表面には《瀬美》と印字されている。
もうしない名だった。
カードをハサミで切ろうとしたこともある。それでも刃を当てる直で、毎回が止まった。
理由は1つだった。
0427。
427。
私と悠馬が婚姻届をしただった。
幸せだったの番号を、あのは婚のに暗証番号として私へ渡した。
そのが分からなかった。
分からないから、捨てられなかった。
そして、使えなかった。
ところが今9の末、派遣契約が終わった。
さらに10半ば、夜清掃の員まで削減され、私はそこも辞めることになった。
7件の面接を受けて、全部落ちた。
賃の支払は迫り、通帳の残は7300円になった。
米を買うのも迷うようになった。
広告
結婚していた頃のをリサイクルショップへ持っていくと、段ボール1箱分で2400円だった。鞄には、悠馬から結婚2目にもらった古い回しのコーヒーミルも入れていた。
1000円にはなるかもしれないとった。
1000円あれば、べるものが買える。
それでも私は、カウンターのでミルのハンドルを握ったままけなかった。
「にもございますか?」
員に聞かれ、私はを引っ込めた。
「いえ。これだけです」
へてから、自分に腹がった。
べるもないくせに、昔の男からもらった古のミルを事そうに持って帰る。
3カードを使えなかったのも、同じだったのだとう。
私はおを拒んでいたのではない。
あのと過ごした9を、完全に消してしまうことが怖かった。
けれど、のは空腹のではしずつ痩せていく。
ある夜、私は7300円と印字された通帳を卓袱台に置き、その隣にカードを並べた。
「ごめん」
誰に謝っているのか、自分でも分からなかった。
「もう、がれない」
翌朝、番ましなコートを着て、私は央へ向かった。
数万円でいい。
米を買い、11の賃の部にする。
それでいいとっていた。
それだけのつもりだったのだ。
まさか、3に捨てられたはずの私を待っているが、のにいるとはわなかった。
そして私は今、制姿の女性に案内され、ロビーの奥にあるさな応接のにっていた。
広告
扉が静かにいた。
「どうぞ」
私はカードを握ったまま、へ入った。
婚したのことを、私は順番まで正確に覚えている。
3の1018。
朝6半、悠馬はいつものように起きた。
私が焼いたパンを半分だけべ、玄関で靴を履きながら「洗面所の球、切れかけてるぞ」と言った。
「買っておくね」
私はそう答えた。
その球を、結局私は買わなかった。
夕方、悠馬は珍しく6に帰ってきた。
いつも持っている黒い仕事鞄がなかった。
「どうしたの? 鞄は?」
「に置いてきた」
悠馬は着も脱がず、卓のへ座った。
私は台所で噌汁を温めていた。
振り返ると、卓に茶い封筒が置かれていた。
嫌な予などなかった。
婚という言葉は、私の常からあまりにもかったからだ。
「婚しよう」
私はお玉を持ったままっていた。
聞き違いだとった。
悠馬は冗談を言わないだった。そもそも、冗談をどう言えばいいのか分からないような男だった。
「何?」
「婚しよう。もういてある」
封筒からされたには、悠馬の欄だけが埋まっていた。
氏名、所、証。
私の欄だけがかった。
私はを止め、向かいに座った。
「なんで?」
「理由はない」
「あるでしょう」
「ない」
悠馬は私を見なかった。
私はいつく限り聞いた。
私が何かしたのか。
好きなができたのか。
仕事で何かあったのか。
父親の借なのか。
体が悪いのか。
最初の3つには首を横に振った。
最の2つには、何も答えなかった。