"4500万の城を奪われた夜" 第8話
続きを終え、役所のロビーにたところで、葵のスマートフォンが激しく震え始めた。 ディスプレイに表示された名は、「父」だった。
葵は呼吸を回繰り返し、通話ボタンを押してに当てた。 最初から、録音ボタンは作させてある。
『葵! 貴様、役所に何を吹き込んだ!』
番、鼓膜が破れんばかりの号が響いた。 実の静かな斎にいるはずの父・宗助の声は、りと焦燥で完全にずっていた。
『悦子から泣きながら話があったぞ! 役所の窓で犯罪者扱いされて追い返されたと! お、自分の実の叔母にそこまで恥をかかせて、体何様のつもりだ!』
「お父さん」 葵の声は、自分でも驚くほど静かだった。りも、しみも、もはやそこにはなかった。 「群馬の、差し押さえられたんでしょ」
話の向こうの空気が、瞬で凍りついた。 荒い息遣いだけが受話器から漏れてくる。
「……健司さんの借の連帯保証に、敏男叔父さんがなってた。千万円以の借があって、先競売の予告通が届いてる。あのたちは受験に来たんじゃない。夜逃げしてきたのよ。お父さんはそれをっていて、私の部をけ渡そうとしたのね」
『……っていたら、何だというんだ』 父の声から気が引き、代わりに傲で、ねじ曲がった理屈が染みしてきた。
『健司は私の甥だ。
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野の血を引く跡取りだぞ。若い頃の事業の失敗くらい、誰にでもある。それを支えるのが族の務めだろうが! 敏男さんたちがく所を失って困っているんだ。おのような独の女が、無駄に広い2LDKにでんでいるのがそもそも贅沢なんだよ!』
「贅沢……? 私が毎終まで働いて、を貯めて、今も毎ローンを払っている部よ。お父さんから円でも援助してもらったことがあった?」
『屁理屈を言うな! おを学までしてやったのは誰だ!』
「奨学よ! 私の名義で借りて、歳まで毎万円ずつ、私が自分で全額返済したの! お父さんは私の学費を円もさなかった。そのおを全部健司さんの専学の費用に回したじゃない!」
葵の胸の底から、代のすべてを犠牲にして働き詰めてきた々の記憶が蘇る。 同期が旅や買い物を楽しんでいる、古いアパートで切り詰め、奨学を返し、ようやくに入れたのがあの調布のマンションだった。
誰にも依せず、自分の力だけできていくための、葵にとっての唯の砦。 それをこの父親は、「族の男のためなら、女の砦など奪って当然だ」と言い放っているのだ。
『親に向かって過の恩着せがましいことを言うな!』 宗助は再び声を荒らげた。 『いいか葵、これは決定事項だ。
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悦子たちはあの部にまわせる。民票も移す。おはくのワンルームでも借りて引っ越せ。敷くらいは私が面してやってもいい。それから――』
父はそこで、当然の権利を使するかのように、信じがたい求をにした。
『おのマンションを担保にして、公庫かから百万円ほど借り入れができないか、りいの産に相談している。健司の借の部をて替えてやれば、あいつらも群馬に戻れる目処がつ。男の娘として、それくらいの親孝はしろ』
の奥で、何かが決定に々になった。 期待でも、でもない。 「父親」という記号に対して、のどこかで最まで捨てきれずにいた、わずかなの残骸だった。
この男は、父親ではない。 族の体面という虚栄を満たすためなら、実の娘を借の沼に突き落とし、そのを骨までしゃぶり尽くすことに何の躊躇いも覚えない、ただの略奪者だ。
「お父さん」
『分かったか。分かったら今すぐ役所に話して、悦子の続きを――』
「度と、私のに関わらないで」
『何……?』
「マンションのローンは私のもの。部も私のもの。あなたにも、叔母さんたちにも、ミリの権利もない。これ以私の財産を侵害するなら、弁護士をてて全員法に排除します」
『葵! 親を捨てる気か! そんな親孝が世に通用すると――』
葵は通話を切った。 そしてそので、父の話番号を着信拒否に設定した。 続いてLINEのアカウントをブロックし、連絡先を完全に遮断した。