"3年の介護と兄のタワマン頭金" 第10話
曜の朝、私は社に島駅の産へち寄り、駅徒歩分のワンルームの賃貸借契約を結んだ。
敷と礼、賃、災保険料をわせて万円。勤める物流会社の与振込座から引きすと、残の数字がし減ったが、胸のには議なほどの静けさがあった。昼休みに役所の張所へき、民票の異届と、私自の印鑑登録の変更続きを済ませた。
実へ戻ったのは、午を過ぎていた。
玄関をけると、居からテレビの音が漏れていた。母は座卓に突っ伏すようにして、ワイドショーの再放送を眺めていた。台所の流しには、昼にべたとわれるカップうどんの容器と、使い捨ての割り箸がそのまま放置されていた。
「麻子、遅いじゃないの。お腹空いたわよ。蔵庫に何もないじゃない」
母は振り返りもせず、座卓を指先でトントンと叩いた。
「病院の先がね、塩分控えろって言ってたのに、あんたが買い物してこないからカップ麺なんて体に悪いものべちゃったじゃないの。くお湯沸かして、卵雑炊でも作ってちょうだい」
私は靴を脱ぎ、廊にったまま言った。
「作らないよ」
母の肩がピクリといた。
「……何ですって?」
「今週の曜に、私、このをるから。駅のくのアパートを借りた。
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契約も済ませたよ」
母はゆっくりと体を捻り、信じられないものを見る目で私を凝した。その目はりというよりも、常のルールが突然壊されたことに対する純粋な混乱に染まっていた。
「……何言ってるの? をる? あんた、私が怪してるのってて言ってるの?」
「ってるよ。でも、お母さんは『健が京へ連れてってくれる』んでしょう? 私のやってることは『恩着せがましい召使いの真似事』で、お母さんを縛り付けてただけなんだから、私がここにいる理由はないよ」
「あんた……本気で言ってるの? 健が迎えに来るまで、誰が私の飯を作るのよ! ゴミしは誰がやるの! 病院のリハビリは誰がすのよ!」
母の声が裏返った。座卓にすがりつきながら、必に体を起こそうとしてに痛みがったのか、顔を歪めて呻いた。
「健に頼んで。男なんでしょう」
私はそれだけ告げ、自分の部へがった。
部の隅に、会社から貰ってきた段ボール箱をつ並べた。と、仕事の類と、父がに買ってくれた本や物を詰めていく。母の活費のために買い置きしてあった用品やオムツ、未封の洗剤には切を触れなかった。
階から、母が誰かに話をかけ、泣き叫ぶ声が柱を伝って響いてきた。
「健! 麻子がていくって言うのよ! 私を置いてでアパート借りたって……! く来て、健! こんなにで残されたら、私、飢えにしちゃうわよ!」
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話の向こうの健の声は聞こえなかった。ただ、母が何度も「え?」「でも」「そんなこと言ったって」と狼狽した声をげているのだけが分かった。
曜の午、休暇を取って軽トラックの配をした。
荷物をすべて積み込み、最に鍵を玄関の靴箱のに置いた。居の襖は固く閉ざされ、母はに引きこもったまま、度も顔をさなかった。ただ、襖の隙から「恩らず」「親孝者」という掠れた呟きが漏れていた。
私は言も返さず、玄関の引き戸を閉めた。 ガチャリと鍵がかかる属音を聞いた瞬、肺の底に溜まっていたい鉛が、すっと溶けて消えていくような気がした。
*
しいアパートでの活は、拍子抜けするほど静かだった。
畳のに、さなベッドとローテーブル、会社帰りにリサイクルショップで買った古の洗濯。朝、誰の嫌も伺わずに自分のためだけにトーストを焼き、定に仕事を終え、静かな部に帰ってくる。
夜に「麻子、湿布貼り替えて」「喉が渇いた」と起こされることもない。休の朝、戸をける音にビクビクする必もない。
週が過ぎた頃、従兄弟の正から突然話がかかってきた。父方の親戚で、母の入院にも親に相談に乗ってくれた数ない内だった。
『麻子ちゃん、今丈夫か?』
「うん、どうしたの正兄ちゃん」