"母の尊厳を踏む家なら捨てます" 第4話
そこには、き父が残してくれた命保険の部と、栞自が代のすべてを費やして貯めた、百万円の定期預通帳が入っていた。
そしてその通帳のをっているのは、世界でたった。 先週、「結婚の資産管理の相談」として残を見せた、相澤隆司だけだった。
栞は鍵を握りしめ、まだ荷物の残る自分のアパートへ向かって、駆けした。
アパートの階段を段ばしで駆けがった。 築の造モルタル、階の番奥の部。鍵穴に鍵を差し込むが、嫌な汗で湿っていた。
扉をけると、引っ越しのために半分段ボールが積みがった、見慣れた畳が広がっていた。 栞は靴を脱ぎ捨てるようにしてがり込み、押し入れの奥に置いてある桐の箱へ向かった。
父がくなったに母から渡された箱だ。には帳、保険証券、そして栞が歳からしずつ積みててきた方の定期預通帳が入っている。
箱の蓋をけた。 通帳はあった。青いビニールカバーに入ったまま、番に置かれている。 だが、その横にあるはずのさな黒い布袋が消えていた。
の届印として使っている、牛の印鑑だった。
栞の喉がひゅっと鳴った。 もう度、箱の底まで指を突っ込んで探す。ない。引きしのも、バッグの底も探した。
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どこにもない。
部の鍵を持っているのは、自分以にはしかいない。 先週、荷物の運びしを実に「持っておくよ」と言って鍵を受け取っていった、隆司だ。
栞はに座り込んだまま、スマートフォンをに当てた。 呼びし音が回鳴って、カチャリと通話がつながる。
「もしもし、栞? どうした、急に」 隆司の声には、焦りも怯えもなかった。背から休の商業施設のざわめきが聞こえる。おそらく実くのショッピングモールにでもいるのだろう。
「隆司さん、私の部に来た?」 「え? ああ、今朝ちょっと寄ったよ。置き忘れてた類があったからさ」
「私の印鑑、持っていった?」
話の向こうで、わずかにが空いた。 「……ああ、それね。話そうとってたんだよ」
悪びれる様子は微もなかった。まるでの傘を違えて差して帰った程度の軽さだった。
「なんで勝に持っていくの? 私の事な届印だよ」
「勝じゃないだろ。さっき居で母さんも言ってただろ、いろいろと物入りなんだよ」 隆司の調が、しずつ苛ちを含んだものに変わっていく。 「結婚式のの支払い、来週曜なんだよ。式から連絡があってさ、親族の控のランクアップとか、うちの役員用の引き物の追加で、予定より万増えたんだ」
「万……? そんなの聞いてない」
「母さんが配してくれたんだよ。
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向こうの顔をてるために必な経費なんだ。僕の座、今の引き落としがくてりないからさ、栞の定期からにて替えてもらおうとって。どうせ結婚したら計は緒になるんだから、続きはいほうがいいだろ」
「どうして私に言も相談しないの」
「相談したら、またさっきみたいにグチグチ文句言うだろ? お、最本当におのことになるとトゲトゲしいよ。僕たちが恥をかかないように母さんがいてくれてるのに、謝どころか文句ばっかり。とにかく、印鑑は僕が預かってるから。、委任状いてくれれば僕がって解約してくるからさ」
「返して」 栞の声は、自分でも驚くほど静かだった。
「は?」
「今すぐ、印鑑を返して。今どこにいるの?」
「お、いい加減にしろよ! なんでそんなに疑りいんだよ。棒扱いか?」
「の部に入って、無断で印鑑を持ちすのを棒って言うんじゃないの?」
話の向こうで、舌打ちの音がはっきりと響いた。 「……荻窪の駅のルノアールにいる。来れるなら来ればいいだろ。母さんも緒だからな」
通話が方に切れた。
栞は息をえ、定期預の通帳と分証をバッグに押し込んだ。 全の血が逆流するようなりのに、奇妙なほど徹な考が宿っていた。
もし今、あのチラシの裏のメモに気づかなければ。
もし今、部に戻って確かめなければ。 には自分の百万円が解約され、相澤の見栄のために消えていた。