"16歳、家を出た姉" 第2話
族なのだから。
自分だけがいなくなればいいなどと考えるのは違っている。
しかし、次のも、その次のも米櫃の底は見えたままだった。
数、への男がやってきた。
町の料理やへ若い娘を紹介して歩く入れだった。の何軒かを回ったあと佐々にも寄り、に腰をろして源蔵とツネに奉公の話をした。
「盛岡ならみ込みのがありますよ。料理で、女を欲しがっている。寝るところもうものも持ちです」
男はそう言ってから、千代へ目を向けた。
「この娘なら働けるでしょう」
源蔵の顔が険しくなった。
「帰ってくれ」
「話だけでも」
「帰ってくれと言ってる」
男は肩をすくめた。
ところが、千代はへりた。
「私がったら、にはいくら送れますか」
源蔵が振り向いた。
「千代」
入れはし驚いた顔をしたが、すぐに額を答えた。
千代はので計算した。
米。
噌。
勇の履。
正男の。
になれば郎の綿入れも必になる。
なくとも、自分がにいて分の飯をべ続けるよりはましだった。
「考えます」
千代が言うと、源蔵はちがった。
「考えなくていい」
入れが帰ったあとも、父は千代を見なかった。
そのの夕方、千代は薪割りをしている父のところへった。
「父ちゃん」
源蔵は黙って鉈を振りろした。
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「私、奉公にる」
薪が割れた。
「かんでいい」
「でも、あのが言ってたところなら」
「度言わせるな」
「父ちゃん」
鉈が再び振りろされ、乾いた音が庭へ響いた。
「おをわせられんほど落ちぶれちゃいない」
千代は父を見つめた。
ずっと言えなかった言葉が、からた。
「もうわせられてないよ」
源蔵のが止まった。
「何だと」
「昨、母ちゃん夕飯べなかった」
「……」
「父ちゃんだって今、昼飯持ってかなかったでしょ」
「子どもがそんなこと気にするな」
「気づくよ」
千代は唇を噛んだ。
「私、減ればいいんだよ」
源蔵がゆっくり振り返った。
「何を言ってる」
「私が減れば、分でいいでしょ」
その瞬、源蔵のがいた。
乾いた音がした。
千代の頬がくなった。
の隅にいた勇が息を呑んだ。
源蔵自も、自分が娘を叩いたことに驚いたようだった。伸ばしたを見つめ、何か言おうとしてをいたが、言葉はなかった。
千代は頬を押さえながら父を見た。
泣かなかった。
「それでもくから」
源蔵は何も答えなかった。
千代はのへ戻った。
その夜、誰も夕方のことをにしなかった。
ただ、布団へ入ってからも頬の痛みは消えず、千代は暗ので何度も目をけた。
けれど、議と迷いはなかった。
16歳の自分に来ることがあるのなら、それをするしかないとっていた。
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3の朝、千代の布団は空になっていた。
最初に気づいたのは母のツネだった。
まだ夜がけ切らないうちに起きて台所へき、いつものように湯を沸かそうとした、奥の部からたいが入っていることに気づいた。見ると、裏がわずかにいていた。
嫌な予がして千代の布団へった。
「千代?」
返事はなかった。
枕元には、折りたたまれた枚のが置かれていた。
ツネの声でが目を覚ました。
源蔵はをに取った。
まだ習いたてのような、し歪んだ文字だった。
《父ちゃん、ごめんなさい》
《私が減れば、分でいいでしょ》
《勇、正男を学へかせてね》
それだけだった。
名さえいていなかった。
部を確認すると、千代の呂敷もなくなっていた。普段着が2枚、母が縫った肌着、さな櫛、それだけを持っていったらしい。
入れも朝くをたと聞かされた。
「追いかけよう」
勇が言った。
「駅までけばにうかもしれない」
源蔵はかなかった。
「父ちゃん!」
「もういい」
「何がいいんだよ!」
勇が叫ぶと、源蔵は黙ってをた。
ツネは追わなかった。
昼を過ぎても父は戻らず、が暮れてようやくから帰ってきた。のついた履のままに座り込み、誰ともをきかなかった。
そのから、佐々では千代の名があまりなくなった。
まるでにすれば、何かが壊れるようだった。
母だけは毎朝、千代の使っていた茶碗を度棚からした。