"1800円の御膳が1万8000円になった日――覆面社長が見つけたホテルの嘘" 第2話
柱のの特別席
数分、レストランの奥から恰幅のいい男が現れた。濃紺のスーツは体にわせて仕てられ、首には分いの腕計がっている。
名札には「支配 藤堂雅彦」と刻まれていた。
藤堂は席に着いた私をたせようともせず、から装を眺め回した。松井が元で何か囁くと、面倒な客を押しつけられたようにため息をつく。
「お客様、当では料理代のほかに、特別席の利用料と専任サービス料を頂戴しております」
「この席が特別席ですか」
私は柱に遮られた周囲を見渡した。壁の継ぎ目は浮き、空調のでナプキンが刻みに揺れている。を頼もうと何度もをげている学にも、員は気づかないふりをしていた。
「どの席を特別とするかは、現責任者である私の裁量です」
「料は事に表示されていませんでした」
「入の案内板にございます。見落とされたのでしょう」
私は入に撮った案内板の写真をいした。ランチメニュー、営業、駐券の案内はあったが、席料については文字もない。
藤堂は嘘をついている。しかも、確認されないことを確信していた。
私がさらに問い返そうとした、レジの方から震える声が聞こえた。
「そんな……私はぷら御膳しかべていません」
先ほど斜めに座っていた、柄な齢女性だった。
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いのカーディガンを着て、使い込んだ布製バッグを両で抱えている。
「ですから、計3万円です」
レジ係の井が平板な声で答えた。
女性は元のメニュー控えを見せながら、「ここには3000円といてあります」と訴えた。藤堂は私を残したままレジへ向かい、彼女の横につ。
女性が差しした控えには、料理名と3000円の数字がはっきり残っていた。井は度だけそこへ目を落としたが、すぐにレジのへを引っ込める。違いに気づかなかったのではない。正しい額を見たうえで、無したのだ。
「料理は3000円です。しかし、お客様がお使いになったのは特別席ですから」
「あの暗い奥の席がですか。そんな説、聞いていません」
「支払いを拒まれるなら、無銭として警察へ相談することになります」
警察という言葉に、女性の肩がきくねた。藤堂は周囲に聞こえない程度まで声を落とし、さらに顔を寄せる。
「ご族にも事を説しなければなりません。お孫さんの誕に、おばあ様が警察汰になったとられたくはないでしょう」
その言葉は料の説ではなく、らかな脅しだった。
内にいた何かが振り向いたものの、藤堂と目がうとすぐ事へ線を戻した。助けを求める女性の呼吸だけが浅く速くなり、バッグの持ちが指にい込んでくなっていく。
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格式あるホテルという板が、彼女にとっては反論を封じるしになっていた。
女性の指が布製バッグのを探った。からてきたのは、子ども向けの自転のチラシと、「翔太 5歳のおたんじょうび」と丸い字でかれた茶封筒だった。
「これは、孫との約束のおなんです」
「でしたら、くお済ませください。のお客様がお待ちです」
藤堂は表を変えなかった。
私はちがりかけた。しかし、今ここで社だと名乗れば、彼らは女性だけに返し、伝達ミスだったと処理するだろう。過の被害も、のき先も隠されたままになる。
助けたい気持ちと、根を断たなければ同じ被害が続くという判断が胸のでぶつかった。私は拳をテーブルので握り、録音のスマートフォンをレジへ向けた。
女性は何度も唇を震わせた末、茶封筒から1万円札を取りした。
1枚、2枚、そして3枚。
藤堂はそれを受け取ると、満そうに笑った。