"1800円の御膳が1万8000円になった日――覆面社長が見つけたホテルの嘘" 第1話
10倍の伝票
「お会計は、1万8000円でございます」
黒いバインダーをいたまま、私は伝票に印字された数字をもう度見た。
注文したのは、季節の炊き込みご飯御膳。入の見本にもメニューにも、税込1800円とかれていた。それなのに、目のの伝票はちょうど10倍になっている。
炊き込みご飯には鶏肉とごぼうが入り、噌汁、鉢、の物が添えられていた。料理そのものは、価格に見う丁寧な来だった。だからこそ、に突然加えられた1万6200円が、材料費やサービスの違いでないことはらかだった。
「確認していただけますか。私が頼んだのは、こちらの1800円の御膳です」
私がメニューを指すと、20代半の仕係は伝票を見ようともせず、の端だけで笑った。胸の名札には「松井」とある。
「違いではありません。当の規定料です」
「料理以に、何の料が加算されたのでしょう」
「それはほど、レジでご説します。お支払いの準備をお願いします」
松井の線は、私の顔ではなく落ちしたジーンズと履き古したスニーカーのを往復していた。昼の柔らかなが差し込む窓際には、仕ての良いスーツを着た客や宝飾品をにつけた女性たちが座っている。方、私が通されたのは太い柱の裏側で、空調の気が首筋へ直接落ちてくる暗い席だった。
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隣の柱の向こうでは、いジャケットを着た女性客の子を別の従業員が丁寧に引き、料理の説までしている。こちらには最初のを置いたきり、誰もづかなかった。接客の差は偶然ではなく、目に見えない境界線として内をつに分けていた。
ここへ来てから、まだ42分しかたっていない。それでも、顧客アンケートに残された「装で扱いが変わる」「会計がおかしい」という言葉が、誇張ではなかったことだけは分かった。
このホテルは、瀬ホスピタリティが全国で経営する18舗のうち、最も古い方である。そして私は、その会社を3に継いだ社、瀬直だった。
もちろん、松井はらない。今は支配にも本社察をらせず、価なシャツとジーンズに着替えて般客として入った。本社の数字では、このの顧客満度は18舗2位。ところが、削除されかけた数件の苦だけが、異様なほど切実だった。
苦をいた客のくは、返も謝罪も求めていなかった。ただ「もう度とけない」「恥ずかしくて族にも言えない」と記していた。その諦めたような文面が気になり、私は通常の次監査を待たず、自分の目で確かめることにしたのである。
「支払いが難しいのでしたら、最初から別のおを選ぶべきでしたね」
松井は声を落とし、子どもを諭すような調で言った。
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その目には、反論できない客を見つけた者の愉悦が浮かんでいた。
胸の内側でたいりが膨らんだが、私は伝票をテーブルに置き、料理が運ばれてきたからかしていたスマートフォンの録音画面を伏せた。本社の監査部と顧問弁護士は、ホテル裏の内で待している。まだ名乗るではない。
単なる入力ミスなら、そので訂正させれば終わる。だが、松井の態度と隔されたような座席は、もっとい仕組みがあることを示していた。
「払わないとは言っていません。ただ、説のできる方と話したいのです」
「私から説しているでしょう」
「では、1800円が1万8000円になる内訳を面で示してください」
松井の眉がわずかにいた。彼はバインダーを取りげようとしたが、私はその端を指で押さえた。
瞬、内の器の音がのいたようにじた。
私は彼の目をまっすぐ見て、静かに告げた。
「支配を呼んでください」