みかん小説
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"一枚のタダ券から始まった家族" 第4話

いつしか常連客たちにも顔を覚えられ、「歩美ちゃん、今は何描いてるの」と声を掛けられるようになった。

苗にもしずつ笑顔が戻っていた。毎決まった料を受け取り、費や賃に怯えなくていい活が戻ると、夜に突然目が覚めることも減った。くなった夫をして泣くはまだあったが、歩美の寝顔を見ながら「は何をべさせよう」と考えられることが、以とは比べものにならないほど幸せだった。

5のある定休苗は先でを掘っている君子を見つけた。に面したさな壇はずっと何も植えられていなかったが、君子はそこへ粒ずつ種を落とし、から丁寧にをかぶせていた。

「何の種ですか?」

「ひまわり。今も咲くといいんだけどね」

君子はそう答え、じょうろでを撒いた。単なる園芸にしては慎すぎる仕だったため、苗が議そうに見ていると、君子はさく笑った。

「歩美が好きだったのよ。毎ここで育ててたの」

今度の「歩美」が、自分の娘ではないことを苗は理解した。君子はそれ以せず、濡れたをしばらく眺めていたが、その横顔にはを育てるというより、誰かの帰りを待つの静かな祈りが滲んでいた。

そのの午苗はの帳簿を理していた。客がないことは分かっていたが、実際の数字を見ると予に厳しく、で売がさらに落ちている。

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も君子も自分たちの活を切り詰めながらを続けており、そこへ自分と歩美まで受け入れたのだとると、苗は胸が痛んだ。

「私にも何かできませんか。お客さんを増やすために」

君子へ相談すると、彼女は困ったように笑った。「苗さんはもう分働いてくれているよ」と言い、売のことまで背負わなくていいと諭した。しかし苗には、に助けてもらった恩を返したいという気持ちだけではなく、このがなくなることを怖いとじる自分がいることに気づいていた。

それから苗は、暇ながあるとを通るを観察するようになった。夕方になると、が駅へ向かう方で、スーパーやコンビニの袋を提げた齢者がく歩いている。川堂のを通り過ぎるいのに、簾をくぐるはほとんどいなかった。

ある、隣の理髪《ヤマシタ》の主が、を掃いている苗へ声を掛けた。は70歳を目にした健の古い友で、昼飯のほとんどを川堂でべている。苗が「どうすれば通るに入ってもらえるんでしょう」と尋ねると、の向こうを指差した。

そこには、宅に暮らしの男性が、コンビニの袋を持ってゆっくり歩いていた。によれば、所には同じような齢者が増え、腰が悪くなってをしなくなったいという。

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それでも事は必だから、くのコンビニまで歩き、弁当をつ買って帰る。

「昔はここで飯をってたいんだ。でもに入るのが億劫になったり、健ちゃんの定じゃ量がかったりするんだろうな」

その話を聞きながら、苗はつのことを考えた。へ来られないのなら届ければいいし、定すぎるのなら量を変えればいい。何より、事をすることが寂しいなら、々でも誰かとべられる所を作ればいいのではないか。

その晩、苗は健と君子をにして弁当販売を提案した。唐揚げを3個に減らし、煮物や温野菜を増やした齢者向けの弁当を作り、希望者には自転で配達する。でも弁当をべられるようにすれば、通常の定ではすぎる客も戻ってくるかもしれない。

しかし健はすぐには答えなかった。腕を組んで目を閉じたまま黙り、君子も夫の反応を気にするように横顔を見ている。

にも、同じことを言ったがいたの」

君子がぽつりと言った。

「誰ですか?」

「息子よ。隆志がね、10に」

がゆっくり目をけた。苗は触れてはいけない所へ踏み込んだのだとじ、慌てて「すみません」とげたが、健らなかった。

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