"愛人とタイへ行った夫の10日後" 第2話
「申し訳ありません」
私はを押し殺してをげた。
いつもなら、ここで自分を納得させていた。
族だから。
男の嫁だから。
息子の健もすでに独し、このを守るのは私しかいないから。
けれど、そのは違った。
に落ちたタオルを拾いながら、にった。
どうして私は、こんなたちのために自分のを削っているのだろう。
しみよりも先に、たい虚無が胸のへ広がった。
をた私は、そのまま2階の寝へ向かった。
そしてクローゼットの奥から、古いボストンバッグを引っ張りした。
表面には、く埃が積もっていた。
それは28、浩司と結婚したばかりの頃、初めて2で旅へくために私が買ったバッグだった。
28の浩司は、今とは違うに見えていた。
「俺はでしっかり稼いでくる。由美はしてを守ってくれ」
婚の頃、浩司がそう言った、私はそれをだと信じた。
だから仕事を辞め、専業主婦になった。
男の健がまれてからは、育児と事に追われる々だった。それでも、浩司がで働きやすいようにと、のことはできる限り自分でこなした。
浩司は面のいいだった。
親戚にも所にも「頼りがいのあるご主ね」と言われた。
けれど玄関のドアが閉まれば、事をすることはほとんどなかった。
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夕がし遅れれば嫌になり、私がをして寝込めば、「俺の飯はどうするんだ」と先に聞くようなだった。
それでも私は、結婚とはそういうものなのかもしれないとい続けた。
決定に活が変わったのは、3だった。
義母が脳梗塞で倒れ、退院も介護が必になった。
私は施設への入所も提案した。
だが浩司と義母はく反対した。
「俺の親をに預けるなんて、世に何て言われるか分からない」
浩司はそう言った。
「男の嫁なんだから、で面倒を見るのがおの役目だろ」
ヘルパーをもっと利用したいと言っても、義母が「をへ入れたくない」と嫌がったため、最限しか使わせてもらえなかった。
それから3、私の活は介護だけになった。
朝5に起き、おむつを替え、体を拭く。み込みやすい事を作り、ずつへ運ぶ。
しむせれば、
「あんたが急がせるからでしょう」
とられた。
お茶がければ、
「私を傷させる気?」
と睨まれた。
夜も2おきに起きるがあり、私は性な眠になった。
洗いと消毒を繰り返したは荒れ、指先には常に絆創膏が貼られていた。
そんな3だった。
「由美さん、いつまで待たせる気?」
階から再び義母の声が響いた。
私はボストンバッグから目をした。
計は昼をし回っていた。
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蔵庫に残っていた材料で柔らかいうどんを作り、義母の部へ運んだ。
「遅いわよ。浩司がいない途端これなんだから」
義母は今も変わらなかった。
私は黙って事を介助した。
いつもなら1つ1つの言葉にが傷ついていた。
しかし、そのは議なほど何もじなかった。
〈プール付きのスイート取れたよ♡〉
あの文字が、私のへたい麻酔をかけていた。
私が義母へずつうどんをべさせている、浩司は美穂とホテルへ向かっている。
その事実が、私を28縛ってきた「妻だから」「嫁だから」という鎖をしずつ壊していった。
「何よ、その目は」
義母が急に言った。
「何か文句でもあるの? 言っておくけど、あんたがこのにいられるのは浩司が置いてやってるからなのよ」
「お義母さん」
私は初めて義母の言葉を遮った。
義母が驚いた顔でこちらを見る。
「事が終わったら、し休んでいてください」
それ以何も言わず、空になった器を持ってちがった。
義母は、いつもと違う私の態度に気圧されたのか、そのだけは何も言い返さなかった。
器を洗い終えると、私は2階の浩司の斎へ向かった。
このの財産は、ほとんど浩司が管理していた。
私が結婚に貯めたわずかな貯も、浩司は「俺がまとめて管理する」と言って自分の斎に置いていた。
自分の通帳と印鑑だけは取り戻さなければならない。
斎の番の引きしには鍵がかかっていた。
けれど、鍵の隠し所を私はっていた。