"妻の葬儀で老犬が暴いた秘密" 第1話
太郎が妻の飾り祭壇へびかかったのは、葬儀から3目の夜だった。
13歳になる柴犬で、ろ脚はすでにっている。縁側へがるでさえ度ち止まる老犬が、突然畳を蹴り、い唸り声をげながら祭壇へ体当たりした。
「太郎、やめろ!」
私がちがったには、祭壇の脚が畳の縁へ引っかかり、供えてあったと線てが横倒しになっていた。さらに、倒れたろうそくのがい祭壇布へ燃え移った。
私は座布団をつかみ、燃えがりかけた布へ何度も叩きつけた。黒い煙と焦げ臭さが部に広がり、妻・幸子の遺が傾く。
ようやくを消し止めた、い布の端は黒く縮れ、畳にもさな焦げ跡が残っていた。
「何をしているんだ、おは……」
私は荒い息をえながら太郎を見た。
だが、太郎は私を見ていなかった。祭壇が置かれていた壁際へを向け、をろへ伏せたまま、喉の奥で唸り続けている。
混乱して祭壇へびかかったのではない。
そう気づいた瞬、りが引いた。
「そこに何かあるのか?」
声をかけても、太郎はかなかった。
私は陸自隊でく勤務し、退官には佐として部隊を預かっていた。部にはいつも、異常を見つけたほどい込みを捨てろと教えてきた。
見たいものを見るのではない。
そこにあるものを、そのまま確認する。
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自分へそう言い聞かせ、まず幸子の遺を持ちげた。写真のの妻は、い桃のブラウスを着て穏やかに笑っている。
4まで、その笑顔は写真ではなかった。
私はでわれていた訓練の支援にていた。夜の打ちわせを終えた直、自宅の階段から幸子が転落し、病院へ運ばれたという連絡を受けた。
急いで故郷へ戻ったが、私が病院へ着いたには、もう妻へ声をかけることさえできなかった。
古いの階段は急だった。踊りも狭く、以から私がすりを増やそうと言っていた所である。
警察からは、内に争った形跡はなく、転落事故と考えて矛盾はないと説された。所にも審な物を見た者はいなかった。
私は納得したわけではない。
ただ、事故ではないと主張する根拠を何つ持っていなかった。
葬儀では、幸子の弟である健が、親族の誰よりもきな声で泣いていた。その妻の真由美も目元を押さえ、私の代わりに弔問客へをげてくれた。
「義兄さんは休んでいてください。姉ちゃんの祭壇は、俺たちがえておきますから」
健にそう言われ、私は礼まで述べた。
今になってえば、あのの私は妻を失った事実を受け止めるだけで精いっぱいだった。誰がどの部へ入り、何へを触れたかなど、確かめる余裕はなかったのである。
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私は祭壇を完全に壁からした。
そこには、角くい埃の跡が残っていた。畳と板張りの境目がわずかに見え、そのうち枚の板だけが自然に浮いている。
築60を超えるだ。湿気でが反った能性はある。
しかし、板の端に並んだ3本の傷は自然なものには見えなかった。細い具を差し込み、図に持ちげたような跡だった。
私は台所から懐灯を持ってきた。
板へ斜めにを当てる。太郎が私の隣へ来て、先ほどよりい声でを鳴らした。
「待て」
の癖で声がくなると、太郎は歩がった。だが、その線だけは板かられない。
私は板へをかけようとし、寸で止めた。
もし何かがあるなら、勝にかしてはいけない。触れたことで、そこに残るものを変えてしまう能性がある。
スマートフォンを取りし、部全体、祭壇の位置、板の傷を順番に撮した。定規を当てる代わりに、傷の脇へ貨を置いてきさが分かるようにした。
最に、板の隙へ懐灯のを落とした。
暗いに、何かがあった。
の布。
その向こうで鈍くる属。
さらに、いの端のようなものが見える。
私はへ膝をついたまま、しばらくけなかった。
祭壇が倒れなければ、決して見つけられなかった所だった。
そして、この板の真へ祭壇を置き、位置を細かく調したのは、葬儀社のではない。
幸子の弟、健だった。