"27年後、娘は父の葬儀に帰ってきた" 第9話
「無理に呼ばなくていい」
佐子は伝えた。
「私が母親であることと、あなたが今すぐそう呼べることは別だから」
正の自宅を理する、美穂も初めて同した。子ども部は27の形では残っておらず、正がテレビ取材用に部だけ再現していた。
机のに置かれた教科は、美穂が使っていたものではなかった。ランドセルも撮用に購入された別の商品だった。
「お父さんは、私の本当の部まで捨てたのね」
佐子は押し入れの奥から古い箱を取りした。には、美穂の赤いランドセルが入っていた。
失踪当、美穂はランドセルを背負ったまま理恵のへ乗った。しかし群馬へ着いた翌、理恵はしい活に以の物は必ないと言い、ランドセルを正へ返していた。
正は佐子に見つからないよう会社の倉庫へ隠した。数、佐子が偶然発見し、自分の実へ運んで保管していた。
「あなたが帰ってきた、渡そうとっていた」
ランドセルの表面にはさな擦り傷があり、側面には黄い巾着袋を結んでいた跡が残っていた。
美穂は蓋をけた。には箱、算数の教科、半分になった消しゴム、提しなかった保護者会の通が入っていた。
通の裏には、鉛でい文章がかれていた。
《お母さんと、帰りにケーキをべたい》
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美穂はその文字を見ても、すぐには泣かなかった。を指でなぞり、何かを確かめるように何度も読んだ。
「この、本当に迎えに来るつもりだったの?」
「もちろん。駅のおで、苺のケーキをべる約束だった」
「でも来なかった」
「正さんに会社へ呼びされた」
「どうして私を先にへ帰らせなかったの?」
「学へ話したけれど、伝言が届かなかった。私も、もっと確認すればよかった」
佐子は、すべてを正のせいにしなかった。計画をらなかったとはいえ、学へ戻るのが遅れたことを27悔やんでいた。
「あなたのせいじゃないと言ってほしい?」
美穂に尋ねられ、佐子は首を横に振った。
「そう言ってもらうために話したんじゃない。私が何をして、何をしなかったのか、あなたにってほしいだけ」
美穂は通をランドセルへ戻した。
「これ、持って帰ってもいい?」
「あなたのものよ」
その、美穂は赤いランドセルを抱えて群馬へ帰った。駅のホームでは目を引いたが、布袋へ隠そうとはしなかった。
に着くと、理恵の遺のへランドセルを置いた。
「あなたが育ててくれたことは忘れない。でも、あなたが私から奪ったものも、なかったことにはしない」
美穂は初めて、理恵への謝とりを同ににした。
どちらか方を選ばなくてもよかった。
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された記憶があっても、奪われた事実を許す必はなかった。
翌の417、佐子は朝から落ち着かなかった。美穂が消えたであり、毎1で駅のケーキを訪れるでもあった。
は改装され、昔の面はほとんど残っていなかった。それでも苺のショートケーキだけは、27とよく似た形で並んでいた。
午2過ぎ、佐子の携帯話に美穂からい連絡が届いた。
《今、ありますか》
佐子は《あります》とだけ返した。すぐに話したい気持ちを抑え、娘から次の言葉が来るのを待った。
《27の約束を、ひとつだけ終わらせたい》
美穂がへ到着したのは午3だった。仕事帰りではなく、休用のい青のコートを着ていた。
2は窓際の席へ座り、苺のショートケーキを1つずつ注文した。
佐子は、昔の約束を覚えていてくれたことへの謝をにしようとしたが、やめた。美穂がここへ来たのは、母親をばせるためではない。
27止まっていた10歳の自分を、この所から連れすためだった。
ケーキが運ばれてくるまで、2のにはい沈黙があった。
佐子は何を話せばよいか迷った末、ごく普通のことを尋ねた。
「今は、どんなべ物が好き?」
美穂はしそうな顔をした。
「焼き魚。特に鯖」
「理恵さんが作ってくれたの?」
「うん。魚だけはだった」
以の佐子なら、理恵の名を聞くだけで胸が痛んだかもしれない。しかし今は、美穂の27から理恵を消すことはできないと分かっていた。