"金曜日の一冊" 第2話
その頃には、千紘も曜を識するようになっていた。広告制作会社で管理をしているため、曜は週で最も残業になりやすかったが、それでも帰宅するとまず307号のを見てしまう。
7の終わり、京には激しい夕がった。千紘は駅のコンビニまであと200メートルというところで止めされ、会社に置き傘を忘れたことを悔しながら軒にっていた。
「藤原さん?」
背から声がして振り返ると、直が黒い傘を差していた。仕事帰りらしく、シャツの袖を肘までまくり、袋を抱えている。
「マンションまでなら緒に入ります?」
千紘は反射に「丈夫です」と答えた。直はし驚いたものの、「分かりました」とだけ言い、で歩きした。
そのろ姿を見てから、千紘は自分でもし自然だったとった。傘へ緒に入るだけなのに、何かを借りること自体に構えてしまう。
10秒ほど迷ってから、千紘は彼を追いかけた。
「桐さん、やっぱり入れてもらってもいいですか?」
直は振り返り、「もちろん」と傘をし千紘側へ傾けた。理由も聞かず、最初に断ったことをからかいもしなかった。
マンションまでの10分ほど、は初めてまともに話した。直が計修理の仕事をして14になること、祖父も同じ仕事をしていたこと、週末の箱はへ持ち込まれた古い本を処分するのがもったいなくて始めたことをった。
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「でも、冊ずつなんですね」
千紘が尋ねると、直はし考えてから答えた。
「選ぶ方が楽しいからです。たくさん置くと、ただの古本置きになりそうで」
「誰が読むかも分からないのに?」
「分からないから面いんじゃないですか」
その言葉を聞いて、千紘は付箋を始めるから直が自分を定していたわけではないのだと分かり、なぜかしした。
マンションへ着く頃にはがくなっていた。エレベーターをりた直は、「傘、別に返さなくていいですよ。まで同じですから」と当たりのことを言った。
千紘は部へ戻ったあと、自分がし緊張していたことに気づいた。
曜。
箱には、に関する編集が入っていた。
青い付箋にはだけかれていた。
《相傘、そんなに嫌でした?》
千紘はしばらく笑ったあと、返事をいた。
《嫌だったわけではありません。に借りを作るのがし苦です。》
翌週の返事は、っていたものと違った。
《では今度、僕が何か借ります。これで相殺にしましょう。》
そして3、本当に直が305号のチャイムを鳴らした。
「牛乳、しだけ余ってませんか?」
千紘はわず笑ってしまった。
「それ、絶対わざとですよね」
「半分くらいは」
結局、封のさな牛乳を本渡した。直は翌、同じメーカーの牛乳と、さなプリンをつ袋へ入れて返しに来た。
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「プリンは利息です」
千紘はその言葉に笑いながら、久しぶりに誰かへ物を貸しても何も失わなかったことに気づいた。
8になる頃には、は付箋だけでなく、廊でもしずつ話をするようになった。直が帰宅するは千紘よりいことがく、玄関で箱へ本を入れているところへくわすと、千紘は「今週は何ですか」とそので聞くこともあった。
ある曜、直から「所に面い古本がありますけど、きませんか」と誘われた。千紘は瞬迷ったが、以なら断っていた種類の誘いだとい、そのことが逆に気になって「きます」と答えた。
古本は駅の反対側にあるさなだった。井まで積みげられた本のを歩きながら、直は本を選ぶというより、の持ち主がいた名や古い栞、付の入った領収ばかり見ていた。
「本そのものより、挟まってる物を見るのが好きなんですか?」
千紘が聞くと、直はし恥ずかしそうに笑った。
「昔の物を直す仕事をしてると、使ってたの痕跡が気になるんですよ。腕計も裏蓋をけると、の修理がさく付をいてることがあります」
直の仕事にも興が湧き、千紘は数にを訪ねた。商の端にある《桐計》は祖父の代から続いており、現は直と父親の友だった70代の職がで営業している。