"毎日パンを持ち帰る少女" 第1話
昭384、京から私鉄で40分ほどれた町にも、ようやくらしいが吹き始めていた。駅の周囲にはしい団がしずつ建ち始めていたが、本裏へ入れば畑や雑林が残り、舗装されていないでは子どもたちが埃をげながら学へっていた。町桜ヶ丘学も、そんなしい宅と古い農が入り混じる所に建っていた。
昼休みがづくと、52組の教には独特の匂いが漂った。い割烹着と子をつけた当番が廊からきなアルミの缶を運び込み、属製のかごには数分のコッペパンが並んでいる。そのの献は野菜スープと脱脂乳、それに量のマーガリンだった。
担任の田芳は、黒板の横にちながら子どもたちが配膳する様子を見ていた。29歳になる芳は教師になって7目で、騒がしい子や喧嘩のい子だけでなく、逆にあまりにものかからない子にも注を向けるようになっていた。静かな子ほど、自分からは何も言わないことを何度も経験してきたからだった。
そので、最し気になっている児童がいた。
原美、10歳。
美はいつも髪をつに結び、紺のジャンパースカートをきちんと着ていた。勉はよくでき、字も丁寧で、宿題を忘れることもほとんどない。休みには数の女子と縄びをしているが、自分から輪のへるような子ではなかった。
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が始まると、美はスープを残さずみ、苦な子のい脱脂乳にも文句を言わなかった。ところがコッペパンだけは、いつも半分ほどべるとを止めた。そして周囲の子どもたちが片づけを始める頃になると、残ったパンを用のいで丁寧に包んだ。
その包みは、机の横に掛けてある布鞄のへ消えた。
最初に芳がそのに気づいたのは、始業式から1週ほど経った頃だった。そのはパンがしきかったため、何かの児童がべきれずに残していた。の細い子もいるので、芳も特に注しなかった。
しかし翌も、美は同じことをした。
さらにその翌も同じだった。
芳が気づいていることをらないのか、美は机のでパンをに包み、素く鞄へ入れた。そのつきには、単に「残ったから持ち帰る」という軽さがなかった。まるで誰にもられてはいけない約束を守っているように、周囲を度確かめてから鞄のを閉じていた。
「原さん、パン嫌いなの?」
ある、向かいの席の女子が何気なく尋ねた。美は瞬を止めたものの、「ううん」とだけ答え、そのは何も言わなかった。
芳は教卓からその様子を見ていたが、そのでは声をかけなかった。本が隠そうとしていることを、教ので問いただすべきではないとったからだった。
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そのの掃除、教のろで雑巾をすすいでいた女子たちの声が聞こえた。
「原さん、今も持って帰ったよ」
「毎だよね」
「でべるものないんじゃない?」
「弟がいるって聞いたよ。弟にあげてるんじゃないの」
「でも、それってずるくない?」
最の言葉をにしたのは、学級委員をしている佐々美智子だった。悪を込めているわけではない。ただ「学の決まり」に敏で、誰かだけが違うことをしているのが気になる性格だった。
「は学でべるものでしょ。みんな持って帰ったらなくなっちゃうじゃない」
「残したパンなんだからいいじゃん」
「でも、毎だよ?」
話している子どもたちの声が、しずつきくなっていった。
昭30代の教では、庭の暮らしぶりが子どもの持ち物にそのまま表れることが珍しくなかった。品のランドセルを買ってもらえるもあれば、兄や姉のおがりを使うもある。箱ひとつ、靴でも、どのに余裕があり、どのが苦しいのか、子どもなりに何となく分かってしまう。
べ物の話となれば、なおさらだった。
芳は雑巾を絞っていた美智子たちに声をかけた。
「ののことを、勝に決めつけるのはよくないわよ」
女子たちは斉に黙り込み、「はい」とさく答えた。しかし子どもの噂は、度始まれば教師が言注したくらいでは完全には消えない。