みかん小説
本棚

"卒業写真にいた父" 第1話

403

あいにさな町では、まだ朝晩にたさが残っていた。駅から続く商には、文具、呉が軒を並べ、そのほどに、製の板を掲げた「坂写真館」があった。

卒業式の季節になると、写真館はでいちばん忙しくなる。

先には赤い文字で「祝 卒業」とかれた札がてられ、ガラスケースのには袴姿の女学や、詰襟姿の族と肩を並べるたちの写真が飾られていた。今のように各庭が気軽に何枚も写真を撮れる代ではない。入学、、成、結婚、卒業。の節目に残される枚には、それだけ特別ながあった。

そのの午、町組、38の卒業が、卒業式を終えて坂写真館へやって来た。

胸には式でもらったがついている。男子はいシャツや詰襟、女子はよそきのブラウスにスカート姿で、緊張している子もいれば、卒業式が終わったから、先でふざけっている子もいた。

「こらこら、写真撮るを潰すんじゃないぞ」

主の坂が、脚つきのきなカメラの横から声を張りげた。

40代半ばの坂は、町の子どもたちの顔をほとんど覚えていた。赤ん坊の族写真を撮り、がるにランドセル姿を撮り、それから何かして卒業写真を撮る。

広告

写真館とは、そういう所だった。

「背のい子はろ。の子は子に座って。そこ、もうし詰められるか?」

子どもたちが笑いながら位置を変えていく。

そのに、から列目の端へったがいた。

健司、12歳。

で、髪は母親にきっちりえられていた。胸元のだけがし斜めになっていたが、本は気づいていない。

、もうちょっとへ寄れよ」

隣の男子に言われ、健司は半歩だけいた。

「これ以ったら肩ぶつかるだろ」

「いいんだよ、集写真なんだから」

「おがそっちけ」

声で言いっていると、坂から「そこ、しゃべらない」と注され、とも慌ててを閉じた。

健司は、卒業そのものより写真の方をし楽しみにしていた。

母とで暮らしているには、古いさなカメラが台あるにはあったが、フィルム代も現像代もかかるため、ほとんど使われていなかった。のアルバムにある自分の写真は、と入学式、それに運会で親戚が撮ってくれた数枚程度だった。

だから、この卒業写真は特別だった。

学へけば、今のクラスの友達とはれる者もいる。

京へ引っ越すという子もいた。

写真なら、ずっと残る。

「じゃあ、いくぞ。くなよ」

が黒い布をかぶり、カメラを調する。

その瞬だった。

線が、ほんの度だけへ向いた。

広告

健司は気づかなかった。

子どもたちも、担任も気づかなかった。

写真館のガラス戸の向こう、れたに、の男がっていた。

くたびれた背広姿だった。

へ入る様子はなく、かといってるでもない。こちらから見られないように、柱と建物のへ半を隠していた。

だけが、その男の顔をっていた。

「はい、こっちを見る!」

子どもたちの顔が斉にカメラへ向いた。

は迷った。

の男へ声をかけるべきか。

所を移すよう言うべきか。

だが、38の子どもたちはすでに並び終え、担任も「みんな、じっとして」と声をかけている。

ほんの数秒の迷いだった。

はシャッターを切った。

乾いた音が内に響いた。

「よし。もう枚いくぞ」

のため、もう度撮した。

子どもたちは終わった途端に列を崩し、友達同士で笑いながらていった。

健司も仲のいい友達に呼ばれ、振り返ることなく写真館をにした。

の男は、その姿を目で追っていた。

健司が角を曲がって見えなくなるまで。

それから男は坂さくげると、何も言わずに歩きした。

はその背を見送った。

写真館の奥には、現像を待つフィルムが何本も並んでいた。今だけでも卒業写真が何組分もある。夜遅くまで作業をしなければならなかった。

それでも坂には、さっきの男の姿が残った。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: