"ヤクザが凍りついた夜" 第8話
黒田にとって最も耐え難かったのは、自分がから恐れられなくなったことだった。
これまでなら商へ入るだけで主の顔が変わった。
酒をめば誰かが席を譲った。
し声を荒らげればが黙った。
それを黒田は自分の力だとっていた。
ところが今では、彼を見る者の顔に怯えより先に好奇が浮かぶ。
「あの老に負けただ」
にされなくても分かった。
黒田は、はっちゃん堂のあるへづかなくなった。
あの赤提灯を見るだけで、カウンターへ腕を押さえられた瞬が蘇る。
相馬も変わった。
腕力には自信があった。
体格で負ける相はほとんどいなかった。
だからこそ、自分より30キロ以軽そうな老に首を押さえられ、歩もけなかった事実を受け入れられない。
だががたつにつれて、屈辱とは別のがまれ始めた。
あの老は自分を壊すこともできたのではないか。
それでもしなかった。
痛みを与えながら、必以に傷つけなかった。
自分たちならどうしただろう。
い相をにすれば、止めてくれと言われても笑って続けていた。
相馬はそれに気づき、酒をむ回数が減っていった。
京をれ、故郷へ戻ることまで考え始める。
浜の変化はさらにきかった。
彼はい者が怯える顔を見るのが好きだった。
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自分よりい者のではをげ、自分よりい者には威張る。
それを世渡りだとっていた。
しかし誠だけは違った。
圧倒に優位になったも笑わなかった。
自もしなかった。
侮辱もしなかった。
「本当にいって、ああいうのか」
浜はでいる、何度もその姿をいした。
方、黒田はなかなか変われなかった。
失った威勢を酒で忘れようとし、昼からむもあった。
「あの爺は何者なんだ」
何度考えても答えはない。
だが答えが分かったところで、自分が負けた事実は変わらない。
力で築いたは、よりきな力ので簡単に崩れる。
黒田が見ようとしなかった現実だった。
が姿を見せなくなると、この界隈にもさな変化が起きた。
先で絡まれることを恐れていた商主が、以より遅くまでをけるようになる。
夜を避けていた常連たちも戻ってきた。
はっちゃん堂にも、「あの夜のらしい」と噂を聞いた客がに増えた。
初はあまり歓迎しなかった。
「見世物じゃないんだから」
そして誰かが誠の正体について尋ねても答えなかった。
「誠さんは誠さん。それだけ」
初はそれで通した。
誠がこのを切にしている理由を、ようやく本当に理解したからだった。
騒ぎが収まると、はっちゃん堂にも普段の夜が戻った。
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田は仕事帰りにビールをみ、佐藤夫妻は通院の帰りにおでんをべる。田は相変わらず曜になるとで焼き鳥を頼んだ。
ただし、つだけ変わったことがある。
皆、誠を見る目が以とは違っていた。
それを本はし困っていた。
「誠さん、こっち座ります?」
田が自分の席を空けようとする。
「いや、そこは田さんの席でしょう」
「でも」
「私は奥で分です」
以なら何も考えず接していたのに、つい気を遣ってしまう。
それが続いたある夜、誠は初へ声で言った。
「の方が良かったですね」
初はすぐを理解した。
翌週から、あえて何も特別扱いしなくなった。
「誠さん、根つね」
「はい」
「今はサービスなし。ちゃんと払ってください」
「もちろんです」
田たちもしずつ元へ戻った。
自隊の話を聞く者はいない。
ただの常連客として酒をむ。
誠が望んでいたのは、それだった。
ある夜、佐藤がし照れながら言った。
「今度、妻とで事でもどうです?」
誠は断ろうとした。
だが子が続けた。
「昔のお話を聞きたいわけじゃありませんよ」
「え?」
「今のお話がしたいんです。庭の入れとか、健康のこととか」
誠はわず笑った。
「それなら私より、佐藤さんの方が詳しいでしょう」
「いやいや、こいつは庭なんて何もしませんよ」
妻に言われ、佐藤が困った顔をする。
内に笑い声が広がった。
その、誠は胸の奥がし軽くなるのをじた。