"ヤクザが凍りついた夜" 第5話
それを理解していた。
「おい、爺さん」
黒田が着を脱いだ。
「俺を馬鹿にするのもそこまでにしろ」
誠は首を横へ振った。
「誰も馬鹿にはしていません」
「だったら謝れ」
「何をです?」
その言で黒田の顔が真っ赤になった。
「俺が直接教えてやるよ!」
黒田が拳を振りげた。
相馬がわず叫んだ。
「親分、やめた方が——」
遅かった。
拳が誠へ向かう。
誠のが、今度ははっきりいた。
黒田の拳は誠を捉えなかった。
誠はきく避けず、わずかに体をずらしただけだった。黒田の腕が伸び切る直、その内側へ誠の腕が入る。
次の瞬、黒田の姿勢が崩れた。
何をされたのか本にも分からない。
気づいたには半がカウンターへ向き、腕を押さえられてけなくなっていた。
「ぐっ……!」
黒田の頬がのカウンターへづく。
誠はそれ以力を加えなかった。
黒田が抵抗を止めれば、痛みも増えない。
「やめろ!」
「あなたがやめれば終わります」
静かな声だった。
さっきまでを支配していた黒田の鳴り声と、あまりにも対照だった。
黒田は自由になろうと体をかした。
そのたびに腕へ負担がかかり、顔が歪む。
「分かった……!」
やがて声がさくなった。
誠はそこで初めてを緩めた。
黒田が数歩よろめく。
浜はに座ったままかず、相馬もづこうとはしなかった。
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が入ってきたには、内の誰も逆らえないとわれていた。
それが今、全員の線を避けている。
田は子からちがったまま、誠を凝していた。
「誠さん……」
何を言えばいいのか分からない。
佐藤夫妻も同じだった。
初はおでん鍋のでを元へ当てていた。
目には涙が浮かんでいる。
怖かったからだけではない。
自分たちを守るために、この静かな老が何かを背負ったことをじていた。
誠は黒田へ言った。
「もう分でしょう」
黒田は答えなかった。
ここへ来るまで、自分が負ける面など像していなかった。
しかも相は78歳。
から見れば細の老だ。
その老へが止められ、自分まで度もまともに攻撃できないまま制圧された。
屈辱より先に、黒田のには恐怖がまれていた。
「何者なんだ……」
今度の声に威圧はなかった。
誠はしを置いた。
「原誠です」
「そういうじゃねえ」
「それ以のことは、今は必ないでしょう」
黒田は何も言い返せなかった。
その、くからサイレンの音が聞こえた。
全員が入へ顔を向ける。
音は次第にづいてくる。
浜の顔が変わった。
「誰が呼んだんだよ」
簾が持ちがり、先ほどへた田が顔をした。
「俺です」
黒田が睨む。
田はを止めたが、今度は逃げなかった。
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「あなたたちがに入ってきた点で、から警察へ話しました」
「てめえ」
黒田が歩踏みそうとする。
その、誠が横を向いた。
ただそれだけで、黒田のが止まった。
数分までなら考えられない反応だった。
ほどなく制姿の警察官がへ入ってきた。
先は40代半ばほどの巡査部、ろには若い巡査が続いている。
「通報を受けて来ました。何がありました?」
内を見渡した巡査部は、瞬言葉を失った。
暴力汰の通報だった。
当然、の柄な男が老を痛めつけている面を像していた。
ところが実際には、浜はへ座り込み、相馬は首を押さえ、黒田は顔を張らせている。
方。
被害者だと聞いていた老は、すでに自分の子へ戻っていた。
呼吸も乱れていない。
「何があったんですか?」
初が説しようとした。
「このたちが急におで——」
黒田が遮る。
「俺たちがこの爺にやられたんだ! 見れば分かるだろ!」
若い巡査が誠を見る。
さらに黒田たちを見る。
どう考えても、最初から老がへ襲いかかった状況には見えなかった。
「違います」
田が声をげた。
全員の線が向く。
田の喉が度いた。
それでも続けた。
「先にをしたのは、そのたちです。誠さんはずっと黙って事をしていました」
「私たちも見ていました」
佐藤夫妻が続いた。
田も頷く。
「老を囲んで、肩をつかんで、殴ろうとしたんです。だから通報しました」
初もく頷いた。
黒田の主張は、にいた全員の証言によって否定された。