"ヤクザが凍りついた夜" 第4話
予していた反応と違ったのだ。
ちがった誠は、やはり背筋をまっすぐ伸ばしていた。
肩はがっていない。
顎も引きすぎていない。
拳を握っているわけでもなかった。
ただっているだけ。
けれど、初にはなぜか、さっきまで子に座っていた老とは別に見えた。
誠が相馬の顔を見る。
ほんの瞬だった。
その瞳の奥から、これまでで見たことのない鋭いが現れた。
次の瞬には消えている。
浜はそれに気づかず、誠の目のまで顔をづけた。
「どうした? 怖くなった?」
酒臭い息がかかる。
誠は答えなかった。
「反応しろよ」
浜が胸元へを伸ばす。
誠は半歩だけ位置を変えた。
浜の指はをつかめず、空を切った。
「お……」
黒田の顔から笑いが消えた。
相馬がろから誠の肩をく引いた。
「気なんだよ!」
初が目を閉じかけた。
田はわずちがった。
佐藤夫妻は互いのを握った。
相馬の拳がくがる。
柄な男の体を乗せた拳が、78歳の誠へ振りろされた。
その瞬だった。
誠のが度だけいた。
殴られる。
内の全員がそうった。
しかし、次に聞こえてきたのは拳が老の顔へ当たる音ではなかった。
「……何だ、これ」
相馬の声だった。
震えていた。
相馬の拳は、誠の顔から数センチれたところで止まっていた。
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正確には止められていた。
誠のが相馬の首をつかんでいる。
ただそれだけに見える。
ところが、相馬は顔を歪めたままけなくなっていた。
「せ……!」
力を込めれば込めるほど、首へ痛みがるらしい。
185センチの男が、78歳の細い老のできを取れなくなっている。
内の誰も状況を理解できなかった。
誠は相馬を殴っていない。
蹴ってもいない。
声さえしていない。
それなのに、相馬の額には汗が浮かび始めていた。
「親分……こいつ、おかしいです」
黒田の眉がいた。
「何やってんだ、相馬」
「かせないんです」
「は?」
相馬が腕を振りほどこうとした。
誠はきくかなかった。
ほんのし角度を変えただけで、相馬の膝が沈む。
「痛っ……!」
初は両を胸ので握ったまま、誠を見つめていた。
5。
静かに酒をむ姿しからなかった。
肩を落として妻の話をすることもあった。
しが震えるもあった。
その老と、目のの物がどうしても同じには見えなかった。
「何者だ、お」
黒田が訊いた。
誠は相馬の首をつかんだまま答えた。
「ただの寄りですよ」
相馬の顔がさらに歪む。
「だったらせ!」
「先にをしたのはあなたでしょう」
声にはりがなかった。
説教するような調でもない。
ただ事実を確認しているだけだった。
そこへ浜がいた。
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「この野郎!」
横から誠へつかみかかる。
初が声をげた。
だが次に何が起きたのか、ほとんどのには見えなかった。
誠がわずかに体の向きを変えた。
浜のが空を切り、がへ流れる。
その勢いを受け流すように誠がくと、浜の体は自分から崩れたようにへ落ちた。
「うっ……!」
鈍い音がした。
それでも誠は、浜のがカウンターの角へ当たらないよう、最の瞬だけきを変えていた。
倒すためではない。
止めるためのきだった。
それを見ていた田は、無識に呟いた。
「何なんだよ……」
相馬も浜も、自分よりはるかに若くきい。
なのに誠は息つ乱していない。
黒田もようやく理解し始めた。
目のにいる老は、喧嘩がいという種類のではない。
もっと別のものだ。
いをかけ、体へ染み込ませた技術。
必な瞬だけ最限にき、相の力をそのまま利用する。
「親分……」
から起きがろうとした浜が、青ざめた顔で言った。
「この爺さん、普通じゃないです」
その言葉を聞いた誠の眉がわずかにいた。
普通。
彼がこの5、何より望んできた言葉だった。
普通の老。
普通の客。
普通の夫。
美代子がきていた頃、誠はそういうを選んだ。
だから今さら、昔の自分へ戻りたいとはわない。
相馬のをす。
相馬はすぐ壁際へがり、痛む首を押さえた。
ところが黒田だけは引かなかった。
がやられた。
ここで退けば、自分が築いてきた威圧も恐怖も失う。