"新幹線の日、父は駅弁を売らなかった" 第10話
「またこの駅に来る理由を、作ってくれますか」
あの、弁当は2のをつないだ。
その30く、父と母は同じを守った。
「分かった」
夫は頷いた。
「玉子焼きは変えない」
栄吉はを鳴らした。
「それだけか」
「煮物も勝に濃くしない」
「誰が濃くするんだ」
「親父」
「俺は濃くない」
夫は笑った。
栄吉も、最には笑った。
昭39101。
本はしい速さをに入れた。
京と阪の距は縮まり、々は「の超特急」に未来を見た。
その方で、静岡のさな駅では、の男が30から待ち続けていた刻に区切りをつけた。
午1112分。
ってきた普通列。
妻と会った列。
めたいなり寿司を半分にした列。
2のが始まった列。
幹線のい体が未来へりしたそのに、栄吉はあえて弁当を1つも売らず、その列をただ見送った。
それはしい代への反抗ではなかった。
古い代にしがみつくためでもなかった。
切なに、最の挨拶をするためだった。
翌朝。
栄吉はいつも通りく起きた。
台所では飯が炊けていた。
煮物の湯気ががり、甘い玉子焼きが並んでいる。
昨と同じ朝のようで、しだけ違う。
壁にはしい刻表が掛かっていた。
古い刻表は、栄吉が切にしている類と緒にしまわれていた。
夫が箱を持ってくる。
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「親父、今は売るんだろうな」
「当たりだ」
「昨みたいに突然休むなよ」
「昨は昨だ」
栄吉は弁当を1つずつ箱へ詰めた。
幕の内。
鯛めし。
いなり寿司。
最に、甘い玉子焼きの入った弁当を置く。
夫は父の元を見ながら、
「カウンターの話、今度駅のとするから」
と言った。
「勝にしろ」
「緒に来る?」
「おがやれ」
「責任だけ押しつけるなよ」
栄吉は答えず、箱を肩へかけた。
2でをる。
の朝だった。
駅へ向かうには、昨の祝賀の旗がまだ残っていた。
聞には幹線業の記事。
くでは列の音が聞こえる。
駅に着くと、栄吉は度だけホームの計を見た。
1112分ではない。
もうしい刻で列がいている。
父はそれを確かめると、何も言わずホームへた。
夫もに続く。
列が入ってきた。
窓がく。
客がホームを見る。
栄吉は昨までと同じように息を吸った。
けれど、その声はしい刻表のへ向けられていた。
「弁当、お弁当です――」
夫はしろから、その背を見ていた。
父は古いものを捨てなかった。
だからといって、古いにち止まったわけでもない。
切だった列をきちんと見送り、その翌にはもうしい列へ弁当を売っている。
夫はようやくった。
代が変わるということは、昨までのものをすべて否定することではない。
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消えていくものに区切りをつける。
残したいものを選ぶ。
そして形を変えながら、次の代へ持っていく。
父が30守ってきたものは、古い箱そのものではなかった。
が作った甘い玉子焼きだけでもない。
旅へるに、
「気をつけて」
と言葉をかけるような気持ち。
らないへ向かうが、列ので包みをいた、ほんのしできる温かさ。
それを父と母は駅弁のへ入れてきた。
幹線がどれほど速くるようになっても、が旅の途で腹を空かせることは変わらない。
どこかへ向かう、し寂しくなることもある。
そんなににする弁当なら、まだ役目はある。
午。
栄吉の箱から最の1つが売れた。
夫は空になった箱を受け取りながら言った。
「親父」
「何だ」
「昨、1つも売らなかったの、やっぱり商売としては駄目だとう」
栄吉が眉をげた。
「まだ言うか」
「でも」
夫は笑った。
「昨休んでくれてよかった」
「どっちなんだ」
「俺が母さんの話を聞けたから」
栄吉は何も答えなかった。
ただ線の向こうへ目を向けた。
昨まで1112分にやって来た列は、もう同じ刻には来ない。
けれど、それでとのまで消えるわけではなかった。
むしろ夫がったことで、その記憶は父のものではなくなった。
「親父」
夫がもう度呼んだ。
「今度、幹線に乗ってみようか」
栄吉はし驚いたように息子を見た。
「何しに?」
「別に。乗るだけでもいいだろ」
「がもったいない」