"この家は俺のものだ" 第2話
実の財産にをさない。
それが何も当たりとされてきた。
正も、それ以の形をほとんど考えたことがなかった。
文はやがて線をげた。
「そう」
それだけ言った。
けれど翌朝、松乃の玄関がまだえ切っているに、文は1でをた。
「どこへくんだ」
帳にいた正が尋ねた。
文は袋のから履を履きながら答えた。
「町役」
「何の用だ」
「ちょっと確かめたいことがあるの」
正は怪訝そうに見たが、それ以は聞かなかった。
解けので濡れたを、文は1で歩いていった。
文が松乃へ戻ってきたのは、昼をし過ぎた頃だった。
朝からりかけていた細かなはやみ、軒先から落ちる解けだけが定の隔で畳を濡らしていた。
帳では正が宿泊客の勘定をしていた。
古いそろばんを弾き、帳面に数字をき込んでいる。松吉がくなっても、旅館を閉めておくわけにはいかなかった。
「兄さん」
文が呼ぶと、正は顔をげずに答えた。
「何だ」
文は懐から折り畳んだをした。
「これ、読んで」
帳のに置かれたを見て、正はを止めた。
「何だ、これは」
「役でもらってきたの」
には、しい民法についての説がかれていた。
戦、本の仕組みがきく変わるで、く続いてきた制度も法律は改められていた。
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戸主制度の廃止。
督相続の廃止。
そして相続について、しい考え方が示されていた。
文は、ある部分に鉛で線を引いていた。
正はしばらく黙って読んだ。
それからを帳へ置いた。
「だから何だ」
声がくなっていた。
文は兄の反応を見ながら言った。
「私たちにも、相続する権利があるって」
正が顔をげた。
「私と清子にも」
「お、本気で言ってるのか」
「法律では、そうなったって役のが」
正は子からちがった。
「親父がんだ途端に、財産を分けろって言うのか」
きな声が帳に響いた。
厨にいた千代が、包丁を持ったままきを止めた。
文は首を振った。
「そんなこと言ってない」
「同じだろう」
「違うよ」
「何が違う」
正はを指で叩いた。
「おが役までって、こんなものを持って帰ってきた。つまり、このの分けが欲しいってことじゃないか」
「私は、ただ昨兄さんが『全部俺のものだ』みたいに言ったから」
「みたいじゃない。俺が継ぐんだ」
「でも私たちは、父さんの子じゃないの?」
その言葉に、正の顔が張った。
「子どもかどうかの話をしてるんじゃない」
「じゃあ何の話?」
「の話だ」
正はそう言って、文を真っすぐ見た。
「おが嫁にった、親父は箪笥を持たせただろう」
文は黙った。
「布団も、着物も用した。向こうのに恥ずかしくないように、だって使った」
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正は続けた。
「清子のだって同じだ。あいつにも嫁入り具を持たせた」
「それは分かってる」
「じゃあ俺は何をもらった?」
文は答えられなかった。
正の声はっていた。
けれど、ただ財産を奪われたくないというりだけではなかった。
「俺は20の頃から、ここで働いてきた」
正は帳の奥を振り返った。
父が何も座っていた所。
「本当は町へたかった。鉄の仕事をしたかったんだ」
文はその話をっていた。
「でも親父に言われた。おは男だから残れって」
正は拳を握った。
「俺は残った」
その言葉には、いが詰まっていた。
「戦争から戻ってきたら、根は壊れてる。借はある。畳はぼろぼろだ。客にす米さえりない」
文は黙って聞いていた。
「俺と千代で、何かけてここまで戻したとってる」
正は厨の方を見た。
千代は何も言わず、また根を切り始めていた。
「親父が倒れてからは、夜だって俺が起きた」
正はさらに言った。
「おたちは、その頃もう自分ので暮らしてただろう」
その言葉に、文は反論できなかった。
確かにそうだった。
文にも自分の庭があった。
子どもはいなかったが、嫁ぎ先での仕事や事があり、父の見いには来ても、毎そばにいることはできなかった。
清子も同じだった。
「今になって法律が変わりました。
だから3で同じに分けましょうって?」
正は乾いた笑いを浮かべた。