みかん小説
本棚

"「母さん、車に乗れないから来なくていい」――家族に捨てられた母と消えた1200万円" 第12話

私ではない署名

登記事項証には、田のマンションが私の単独所であることが記載されている。その横へ委任状を置くと、は膝ので両を握り、は無言で顎を引いた。

「この委任状には、桜産へ売却続を任するとかれています。けれど、この署名は私の字ではありません」

恵理がすぐに顔をげた。

「お義母さんが忘れているだけです。私たちのいたじゃないですか」

「いつ、どこで?」

「先です。のダイニングで」

「先の何?」

恵理は答えられなかった。私はへ提した本署名、5の売買契約、今回の委任状を並べた。専鑑定を待つまでもなく、委任状の文字だけは圧も形も違って見える。

「署名した本が否定している以なくとも忘れたことにはできません。だから警察にも相談し、原本を保しています」

尚弥は委任状を持ちげ、灯りに透かすように見た。偽物がに当てれば本物へ変わるとでもっているようだった。やがてを置くと、恵理へく問いかけた。

「これ、本当に母さんがいたのか」

「だから、そう言ってるでしょう」

恵理の返事はかったが、尚弥を見なかった。

は腕を組み、い声で言った。

「印鑑も押されていないきだ。犯罪だ何だと騒ぐほどのものじゃない。子さんがで同すれば済む話だろう」

広告

「その同を得るために、私を判断できないに仕てて施設へ移そうとしたのですね」

私は恵理が送ってきたメッセージを印刷したを取りした。《18に買主と契約する予定》《実印さえ戻せばう》《売却代は尚弥さんが管理する》。送信話番号も、すべて残っている。

尚弥は初めて見るような顔で、そのを奪うように読んだ。

「恵理、18に契約って何だ。俺は、母さんが納得してから売るって聞いていたぞ」

「あなたが細かいことをらなくても、最終族のためになるのよ。京のを売るなら、しいまいにはまとまった現が必でしょう」

恵理の言葉に、尚弥の表が揺れた。マンション売却の細部はらなくても、そのを自分たちのみ替えに使うことはっていたのだ。

は娘を制し、私を睨みつけた。

「買主とはもう話がんでいる。今さら止めれば、こちらの信用に傷がつく。実印を押して権利証を渡せば、残りのことは専である私が処理してやる」

を乗りすと、茶ぶ台の脚が畳を擦った。私は反射を握ったが、がりはしなかった。襖の向こう、玄関脇には非常ボタンがあり、1階には佐藤と管理がいる。ひとりに見えても、もう私は孤していない。

「112に届いた内容証を読まなかったのですか。

広告

私は売却を依頼していませんし、今も同しません」

元がわずかに引きつった。通らずに来たのではない。っていたからこそ、予定していた118の契約に、4で私を屈させようとしたのだ。

寄りひとりが反対したところで、いつまでも止められるとうなよ」

とうとうの声から丁寧さが消えた。尚弥は止めず、恵理もも黙ったままだった。

を誰かが歩く音がして、瞬だけ玄関を振り返った。私は湯みを両で包み、めた茶をひとんだ。喉の奥に残っていた震えが、ゆっくり消えていく。

私は最まで伏せていた4つ目の封筒を膝のへ置いた。

「では、専さんに説していただきましょう」

封筒から、5の振込記録を取りした。

「私の1200万円を、あなたの会社が受け取った理由を」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: