"「母さん、車に乗れないから来なくていい」――家族に捨てられた母と消えた1200万円" 第1話
にない席
「母さん、に乗れないから、今は来なくていい」
正10の午5、息子の尚弥は玄関で靴を履きながら、気の話でもするように言った。
私は淡いのセーターの袖を引き、聞き違いではないかとの方を見た。運転席には尚弥、助席には嫁の恵理が乗る。部座席には16歳の翔太と13歳の美咲が並んでも、央にはまだひとり分の空があった。ただ、そこには恵理のコートと買い物袋が置かれている。
「でも、5乗りでしょう?」
「帰りに買い物もするし、狭くなるんだよ。母さん、く座っていると腰が痛いって言うだろ」
尚弥が面倒そうに答えると、恵理は予約画面を見せるふりをしてスマートフォンを伏せた。
「おも4で予約してあります。今から数を変えると迷惑ですから」
翔太まで、「ばあちゃんがいると肉を焼くの遅くなるし」と笑った。美咲だけは何も言わず、私の元を見つめていた。そこには、孫2のために用した5000円ずつのお玉袋があった。
き夫が5に選んでくれたセーターを着て、族全員で卓を囲む。それだけを楽しみに、私は朝から洗濯を済ませ、昼の皿を片づけ、蔵庫には翌朝の噌汁まで用していた。
「そう。分かったわ」
私が苦笑して歩がると、尚弥はしたようにドアを閉めた。エンジン音がざかっても、美咲以は度も振り返らなかった。
広告
のへれば、部座席の央に置かれているのが、折り畳める袋とコートだけだとはっきり見えた。私ひとりを乗せるためなら、30秒もかからず片づけられる荷物だった。席がなかったのではない。私のために席を空ける気が、最初から誰にもなかったのだ。
の切れた玄関には、族5分の靴箱と、私の古い靴だけが残った。私はお玉袋を握ったまま台所へ戻ったが、器棚のでったタブレットの通にを止めた。族の予定を共するカレンダーだった。
《111 9:00 母・施設送迎》
予定の作成者は尚弥。詳細欄には、さらにい文が残されていた。
《通帳と実印を確認。拒否したら部を探す》
指先から血の気が引いた。私は自へ戻り、机の引きしをけた。通帳と実印はあったが、その横に置いていた野県田のマンションの権利証だけが、わずかに位置を変えている。
居の類棚を調べると、沿いの料老ホームのパンフレット、私名義の介護認定申請のき、そして田のマンションを1860万円と評価した査定がねて入っていた。申請の署名欄には、私の名が私ではない字でかれている。
しむより先に、体がいた。権利証、通帳、実印、夫の位牌と写真をさなキャリーケースへ入れ、証拠の類はすべて撮した。
5にこのへ来たと同じ荷物だったが、今度は誰かに迎えられるためではない。
卓には、「に私の席がないなら、このにも私の席はありません。私名義の支払いは、今で終わりにします」とだけいた便箋を残した。
午704分発、陸幹線。京駅の券売で、私は窓側の指定席12Aを自分で選んだ。
発ベルが鳴り、ホームがゆっくりろへ流れ始めた、夫の妹・恵子から話が入った。
「子さん、本当に話せるの?」
戸惑う私に、恵子は震える声で続けた。
「尚弥くんから、い認症で入院したって聞いていたのよ」