"「姉は他人」と治療費を拒んだ夫――姑の救急搬送で800万円を求められた私は、通帳を閉じた" 第1話
閉じた通帳
「おの姉さんに使うなんて、うちにはない」
浩司はそう言い放つと、面倒そうにテレビへ目を戻した。画面のでは芸たちが声で笑い、るい効果音が流れている。その笑い声だけが、夕のリビングに自然なほど響いていた。
「全部してほしいと言っているんじゃないの。術と入院、それに退院の活費をわせて、ひとまず120万円あればいいの。貸す形でも構わないから」
私はテーブルのにいた通帳を浩司の方へ向けた。
この座は、20に結婚した、私の名義で作った族用の貯蓄座だった。残は800万円ほどある。私がスーパーの仕事と計の節約で積みげた520万円と、浩司の収入から回した280万円。老と、族に万のことがあったのためのおだ。
今が、その万ではないのか。
姉の直子が職で倒れ、救急搬送されたのは3だった。検査で腹部の腫瘍が見つかり、できるだけく術を受ける必がある。命に関わる緊急処置はすでに始まっていたが、直子は1暮らしで、入院は収入も途絶える。私は治療費だけでなく、退院の活まで支えたかった。
「120万円くらい、あとで私が働いて戻すから」
「額の問題じゃない」
浩司はリモコンでテレビの音量をげた。
「おの姉さんは俺にとってだ。
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のために、俺たちの老資を減らせるか」
「でも、5にお義母さんが臓の術を受けたは――」
「母さんは族だろ。おの姉さんと緒にするな」
浩司はで笑った。
「結婚した以、おは佐藤のなんだ。いつまで実の姉にしがみつくつもりだよ。子どもの頃に面倒を見てもらったからって、を運ぶ気か」
胸の奥を、たい刃でなぞられたような痛みがった。
両親が事故でくなった、私は13歳、直子は20歳だった。親戚から別々の施設へ入るよう勧められても、姉は昼も夜も働き、私を学まで通わせてくれた。姉は私にとって、たった1の肉親であると同に、母親代わりでもあった。
けれど、私は言い返さなかった。
通帳を自分の方へ戻そうとした、最のページに見慣れない数字があることに気づいたからだ。
500万円。
3、ネットバンキングから括で送されていた。振込先は、聞いたことのない産会社だった。
息が止まりそうになった。
浩司には、公共料の確認に必だと言われ、以この座のログイン報を教えていた。だが、500万円もの送を承諾した覚えはない。
「何だよ。まだ文句があるのか」
浩司がこちらを見た。
私は反射に指で細を隠し、静かに通帳を閉じた。
「いいえ。分かりました」
浩司は、私が諦めたとったのだろう。
満そうに背もたれへ体を預けた。
「分かったら、さっさと夕飯を作ってくれ。今は疲れてるんだ」
私は通帳を持ってちがり、台所へ向かった。包丁を握る指先が震えていたが、振り返らなかった。ここで問い詰めれば、浩司は言い訳を作り、証拠を隠す。
夕を終え、浩司がソファで居眠りを始めた頃、テーブルののスマートフォンがく震えた。
青くった画面に、メッセージの部が表示される。
〈週末の具選び、楽しみにしてるね。いソファがいいな。彩佳〉
私は息を殺し、その画面を自分のスマートフォンで撮した。
500万円を受け取った産会社。
そして、私のらない女との具選び。
通帳を閉じた、20守ろうとしてきた庭も、すでに私のらない所へ送されていたのかもしれない。