"7年間介護した私を捨てた夫――愛人を連れて帰宅すると、寝たきりの母も介護ベッドも消えていた" 第16話
義務ではない面会
働き始めてもなく1になる頃には、由美の活にしいリズムができていた。
曜、曜、曜は経理の仕事へく。しい会計ソフトの操作には何度か戸惑ったが、請求と入額のさなずれを見つける覚は残っていた。同僚に礼を言われるたび、妻でも介護者でもない自分の名がしずつ戻ってくるようだった。
最初の与細を受け取ったは、額より先に、受取として印字された〈瀬由美〉の4文字を見つめた。額はかつての正社員代よりない。それでも、誰にも説せず自分で使いを決められるおだった。
休みの曜、由美はの入居したホームを訪ねた。
頼まれたからではない。かなければ責められるからでもない。駅での好きだった柔らかい菓子を見つけ、自分が顔を見たいとったから予約を入れた。
宅の坂をった先にある建物は、淡いクリームの壁に午の差しを受けていた。玄関には季節のが飾られ、堂のきな窓の向こうには、さいながらも入れされた庭が見える。
は窓際の子に座っていた。以より姿勢が定し、腕はクッションのに自然に置かれている。
「し顔がよくなりましたね」
「毎、理学療法士さんが来てくれるの。座っていられるもくなったわ」
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は、ここでの暮らしは悪くないと言った。事のが決まり、夜にになればボタンを押すだけで職員が来る。申し訳なくて何度もすると、職員から「呼ばれるのが仕事です」と笑われたという。
「昨は夜の3に咳がてね。ボタンを押したら、温かいお茶まで持ってきてくれたの」
は子どものようにし得げに話した。その穏やかな表を見て、施設へ入ることは族に見捨てられることだとい込んでいたのは、ではなく健だったのかもしれないと由美はった。
由美はその言葉を聞き、胸の奥がさく痛んだ。7、が夜に呼べる相は自分しかいなかった。もまた、迷惑をかけまいとして息を潜め、ぎりぎりまでしていたのだ。
「由美さんは、眠れている?」
「まだ同じに目が覚めます。午213分になると、体が先に起きてしまって」
「そう……ごめんなさいね」
「お義母さんが謝ることではありません」
由美がそう言うと、はを伸ばした。由美はそのを両で包んだ。以のように介助のために握るのではない。ただ、会いに来たのとして触れた。
「そのうち、朝まで眠れるが来るわ」
しばらく庭を眺めたあと、がさな声で尋ねた。
「健と婚して、よかった?」
由美はすぐには答えなかった。
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26を言で正解にも失敗にもしたくなかった。
「婚そのものがよかったのかは、まだ分かりません。でも、自分のこれからを自分で決めたことは、違っていなかったといます」
は何度もゆっくりうなずいた。
面会を終えて駅へ向かう途、健から話がかかってきた。由美がると、施設から届いた類について、どこへ返送すればよいかと尋ねてきた。
以なら、話越しに類名を聞き、提期限を確認し、必なら施設へ自分で連絡していただろう。その順がのにすぐ浮かぶこと自体、7の習慣だった。
「担当のケアマネジャーに確認してください」
「それくらい教えてくれてもいいだろ。はおが全部――」
「私はもう担当ではありません」
由美はそれだけ伝えて話を切った。再び鳴ったが、今度はなかった。
夕方のには、仕事帰りのや制姿の学が乗っていた。窓に映る自分の顔は疲れていたが、議と穏やかだった。
帰宅、由美は翌の目覚ましを午7にわせた。午213分のためではなく、自分のを始めるための刻だった。