"7年間介護した私を捨てた夫――愛人を連れて帰宅すると、寝たきりの母も介護ベッドも消えていた" 第12話
「これは私の介護です」
ショートステイの共スペースは、きな窓から午のが入り、にいた頃よりるく見えた。
は窓際の子に座り、職員と緒にさな布飾りを作っていた。ではいつも由美の帰宅を気にしていた表が、しだけ穏やかになっている。
テーブルには湯気のつほうじ茶があり、膝にはい毛布が掛けられていた。のがずれないよう、さなクッションで支えられている。どれも特別なものではなかったが、健は母親がどの角度なら楽に座れるのか、今まで度も気にしたことがなかった。
「母さん」
呼びかけると、はを止め、ゆっくり息子へ顔を向けた。
「来たの」
健は職員がれるのを待つと、向かいの子へ腰をろした。
「なんで勝にこんなことをしたんだ。言、俺に相談してもよかっただろ」
の目から、わずかに残っていた笑みが消えた。
「勝ではありません。これは私の介護です。私が決めました」
「由美が何か吹き込んだんだろ。あいつは婚した腹いせに――」
「由美さんは、もうあなたの妻でも、久保田の嫁でもないのよ」
は声を荒らげなかった。それでも健は、その先を遮ることができなかった。
「それでも7、文句ひとつ言わず、けない私の世話をしてくれた。そのに、あなたはまだ何をさせるつもりだったの?」
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健のには、「母さんは由美じゃないと嫌がる」という自分の言葉が浮かんだ。だが本は、由美を引き留めるどころか、自分から施設へ移っている。母の気持ちを理由にしていたのは、結局、自分が何もしたくなかったからだった。
健は線を落とした。
「玲奈さんと結婚したそうね。おめでとう。しい奥さんとしい活を始めるなら、それでいい。でも、の奥さんだけをいつまでもこのに縛りつけるのはおやめなさい」
隣のテーブルから器の触れう音が聞こえた。健はしばらく黙っていたが、結局、最も気にしていたことをにした。
「施設のはどうするんだ。く入ったら、何でいくらかかるか分からないだろ。せっかく2200万円もあるのに」
「私が払います」
「でも、そんなに使ったら母さんのが――」
「私のおよ」
の言が、健の声を止めた。
「お父さんがくなったに残してくれた分も、私がしずつ貯めた分も、私がきていくためのおです。残ったら、そのに考えればいい。最初からあなたのものとして数えないで」
健は唇をかしたが、反論の言葉はなかった。自分の座から2200万円を取られたわけではない。それなのに、失うような痛みをじている。その覚こそ、母の指摘が正しい証拠だった。
「あなたへ残すために、由美さんをただで働かせ続けるつもりはありません。
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私がきるために必なおなら、私が使います」
「そんなつもりじゃない。俺は、母さんをで切にしたかっただけだ」
「では、なぜ度も自分で夜に起きなかったの? なぜ施設を断ったあと、由美さんに全部任せたの?」
「仕事があったんだ。俺が働かなければ、このだって――」
「由美さんにも仕事がありました。あのは私のために辞めたのよ」
の声が初めてわずかに震えた。由美が退職した、申し訳なさで眠れなかったこと。息子が昇をぶ横で、由美が古い名刺を引きしへしまったこと。はベッドのから、すべて見ていた。
健は答えられなかった。
は膝ののをく握り、息子をまっすぐ見た。
「あなたが何を守りたかったのか、私はもうっています」
「何のことだよ」
「あなたが斎に置きっぱなしにしていた、あの古いタブレットを見たの」