"7年間介護した私を捨てた夫――愛人を連れて帰宅すると、寝たきりの母も介護ベッドも消えていた" 第8話
5つの段ボール箱
婚成から3の朝、健は品のスーツに袖を通していた。
ネクタイを鏡ので直し、までつけている。玲奈と婚姻届をし、そのままホテルで祝う予定なのだと、由美は夜に届いた会話からっていた。
「悪いけど、今は記で遅くなるから。母さんの夕飯、頼んだぞ」
わずか3に婚した元妻へ言う言葉とはえなかった。
由美は返事をしなかった。健は、その沈黙さえ解だと受け取ったらしく、交じりにをていった。
それから1もしないうちに、玄関のチャイムが鳴った。
と訪問護師、そのろにはショートステイ先の名が入った送迎がまっていた。今のために数週かけてえた介護計画、薬表、本確認類、施設との契約類もそろっている。
は、由美と緒に選んだ淡いのブラウスを着て、子に座っていた。
荷物は数分の着替え、いつもの薬、保険証と診察券、そしてくなった夫が若い頃に写ったさな写真だけだった。
はその写真を、夜から何度も確かめていた。50く暮らしたをれるが消えたわけではない。夜には「やっぱり残ったほうがいいかしら」とにし、そのたびに自分で「でも、由美さんを残すことになるわね」と言い直した。
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由美は励ます言葉をねず、荷物の所と当の流れだけを何度も緒に確認した。怖さを否定するより、次に何が起きるかを見えるようにするほうが、には必だった。
「忘れ物はありませんか」
由美が尋ねると、はを伸ばした。
「1つだけ」
たい指が、由美のを握る。
「7、本当にありがとうね」
由美は唇を噛んだ。それでも涙はこぼれた。
「今度はね、私のことじゃなく、自分のために朝起きてちょうだい」
子がスロープをがり、が送迎の窓越しにを振った。由美もを振り返した。ありがとうと、さようならのどちらも言葉にできなかった。
が角を曲がると、のは驚くほど静かになった。7続いた介護ベッドのモーター音も、薬の袋が触れう音も、消毒液の匂いもない。
午、レンタル会社が介護ベッドを回収した。畳のには角い跡だけが残った。
作業員が属のフレームを分解する、由美は廊にっていた。毎晩、わずかな物音にも気づけるよう半分けていた引き戸が、今はきくいている。部が空になるほど、そこで過ごした7の夜が逆にはっきりといされた。
次は、由美自の番だった。
26分の荷物を理してみると、段ボール箱はわずか5つだった。と数冊の本、古いアルバム、経理の仕事をしていた頃の資料。
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それだけを引っ越し業者へ渡した。
最に、由美は卓へ鍵を1本置いた。
隣には、7の体温、血圧、薬、事、排泄、通院がかれた介護連絡帳の最分を置く。健がまともに目を通したことのない、母親の活そのものだった。
そして、もう1つ。
表に「健へ」とかれたい封筒を置いた。が何もかけ、自由なでいただった。
き損じた便箋は4枚あった。は途で由美に代を頼もうとしたが、最には「これは私の言葉だから」と自分できげた。文字はきく揺れていたものの、宛名だけはくからでも読めるほど濃かった。
「は読まないでね」
との約束を守り、由美は封をけていない。だが、そのに何がかれていても、もう健の言い訳は届かないとった。
由美は空になった部を見回し、静かに玄関の扉を閉めた。
鍵のかかる音が、26の最の音になった。