"7年間介護した私を捨てた夫――愛人を連れて帰宅すると、寝たきりの母も介護ベッドも消えていた" 第2話
婚しても、介護は続けろ
は、約1かに遡る。
その夜、由美が卓へ置いたのは、健のスーツのポケットからてきたホテルの領収だった。2分のディナーと、ダブルルーム1泊。仕事の会では説できない額と部の種類が、いにはっきり印字されていた。
「この、誰?」
健は瞬だけ目を見いたが、すぐに面倒そうな顔になった。
「取引先のだ」
「仕事相と同じ部に泊まるの?」
い沈黙のあと、健は子の背にもたれた。
「もう夫婦として終わってるだろ。今さら騒ぐなよ」
26の結婚活を終わらせる言葉は、謝罪ではなかった。責められたことへの苛ちだった。
相は玲奈。健の取引先に勤める女性で、彼より15歳く若い。休勤や泊まりの張が増え、シャツかららないの匂いがするようになった理由が、ようやく1本につながった。
由美は声を荒らげなかった。
「そのと結婚するつもりなの?」
「ああ。婚届は用する」
その答えより、次に続いた言のほうが由美を打ちのめした。
「でも、母さんの介護までやめる必はないだろ」
由美は、聞き違えたのだとった。
「私は、あなたの妻ではなくなるのよ」
「だから何だよ。母さんのこととは別問題だろ。おじゃないと嫌がるんだから、今までどおりこのに通えばいい」
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健の調には、迷いがなかった。妻という関係は捨てるが、母親を世話する便利な役割だけは残せると、本気で信じているのだ。
「玲奈さんは、お義母さんの介護をしてくれるの?」
「しない。あいつは仕事があるし、介護するために結婚するんじゃない」
由美はわず笑った。自分も7までは、20く勤めた会社で経理をしていた。数字をわせ、末の締め作業に追われる仕事が好きだった。
が脳梗塞で倒れた、健は「半だけ頼む。そのに俺も介護を覚える」とをげた。その半は1になり、2になり、とうとう7になった。由美は仕事を辞め、夜も2おきに起きて体位を変え、通院や薬の管理まで担った。
朝はの体を起こすにを入れ、麻痺した腕を支えながら着替えを伝う。昼は訪問介護へ引き継ぐため、事量や便通まで連絡帳に残した。夕方は買い物袋をげて帰宅し、塩分を控えた事を作る。夜に呼ばれれば、眠りかけた体を起こして隣の部へ向かった。
健は、その活を「にいる由美がやっている」としか見ていなかった。由美が仕事を失ったことで減った収入も、友との約束を断った回数も、朝まで続けて眠れなくなった体も、彼にとっては庭の内側で消えていく数字だった。
その、健は課から部代理へ昇した。
由美は静かに領収を折った。
「分かった。婚します」
健は堵したように息を吐いた。その顔を見た瞬、由美ので最まで残っていた期待が消えた。
計は23を回っていた。の就寝の薬を用しなければならない。夫に裏切られた夜でさえ、介護のだけは待ってくれなかった。
由美は台所で錠剤を確認し、ぬるいをコップに注いだ。指先は震えていたが、薬の数だけは違えなかった。泣くことも、ることも、のことを考えることも、すべてを眠らせたに回す。それが7でについた癖だった。
由美が廊の奥の引き戸をけると、暗い部のでは目をけていた。
「お義母さん、眠れませんか」
は由美を見つめ、震えるでシーツを握った。
「全部、聞こえていたわ」