"「異物が入ってる!」老舗そば屋を潰した“32秒の嘘”" 第3話
消された分秒
黒川は鑑定を数秒眺めた、さく笑った。
「机の評価と、実際に売れる値段は違う。買いがいなければ、億千万円のにはない」
「なくとも、千百万円で急いで放す理由はありません」
私が契約を返すと、黒川は受け取らず、卓へ置いたままちがった。ほかのも慌てて続いたが、だけが拍遅れ、の類入れを抱えてくをげた。
黒川は簾のでを止めた。
「は信用がすべてだ。たった度の問題で、かけた評判が終わることもある。数字に酔って、売りを違えないほうがいい」
脅しとも忠告とも取れる声だった。引き戸が閉まったも、結はしばらくけずにいた。
「最初から、そばをべに来たんじゃなかったんだね」
「ええ。席の数も、の古さも、私の齢も、全部確かめに来たのでしょう」
私は黒川が残したの入ったコップをげた。透な底に、柚子の黄い欠片がつ貼りついていた。
結はすぐに契約を破ろうとしたが、私は止めて、付が見えるよう卓に広げたまま何枚も写真を撮らせた。黒川の名刺、が座った位置、注文を受けた刻もノートに残す。相がわざわざ会社名をかして訪れた以、今の来事は単なる失礼な客との揉め事では終わらない。
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そう考えると、黒川が最ににした「問題」という言葉が、い棘のように胸へ残った。
「怖くないの?」
結に問われ、私は正直に頷いた。
「怖いよ。でも、怖いほど順番を違えてはいけない。まず記録を残して、それからくの」
そのの営業を終えた午分、結の携帯話が何度も震え始めた。の紹介ページに、見覚えのないき込みが急増しているという。
『異物をしておいて、客を祝う最の』
『謝罪せず、縁起物だと言い張る老主』
添えられていたのは、昼の来事を映した秒の画だった。黒川が「異物が入ってるじゃないか」と鳴る面から始まり、私が「お客さん、おめでとうございます」と答えたところで唐突に終わっている。
自製の柚子薬に残った種だと確認した説も、驚かせたことへの謝罪も、しいそばへの交換を申した部分も、すべて消されていた。
画面のの私は、客の訴えを笑って受け流す非常識な主にしか見えない。実際の順番をっている私でさえ、く切り取られた映像を続けて度見ると、別を見ているような気がした。秒というさは説なのではない。見るをらせるために、必な部分だけを正確に奪ったさだった。
「撮っていたのは、あのの誰かだよ。
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投稿されたのは、あのたちがをてから」
結が画面をスクロールするたび、批判の言葉が増えていく。数、常連客が作ってくれたのページには、派ではなくても温かいがしずつ積みなっていた。その数字が今、目ので崩れていた。
午分、評価は・。
を過ぎると・になり、には・まで落ちた。話も鳴り始め、「の予約を取り消したい」という声が続いた。
「おばあちゃん、今すぐ反論しよう。元の映像があるならせるはず」
「焦ってはいけないよ。相が何を持っているか、先に確かめましょう」
そう答えたものの、胸の奥が痛まないわけではなかった。かけて守ったものが、秒で別の姿に塗り替えられていく。りより先に浮かんだのは、の昼、いつもの席が空いている景だった。
午分。評価は・まで落ちていた。
翌朝の予約表には名の名があった。そのうち名から、すでに取り消しの連絡が入っている。結は平静を装って線を引いていたが、常連客の名を消すたび、ペン先がさく震えた。
その直、非通の番号から通のメッセージが届いた。
『千百万円で承諾するなら、画は消える』