"午前2時、義母に追いやられた離れ" 第15話
820万円で消したもの
れの改修費用は、総額820万円だった。
腐したをすべて剥がし、割れた窓を防音性のいきな窓へ替える。黄ばんだ壁はく塗り直し、古い流し台の所にはさなキッチンを設けた。浴は作れなかったが、洗面台と清潔なトイレ、体を横にできるベッドを置くことはできた。
事が始まった、由は壊された扉のにった。職がバールの傷へ指を当て、「枠ごと交換しましょう」と言う。傷を残すべきか瞬迷ったが、由は首を横に振った。
「全部、しくしてください」
忘れるためではない。誰かに閉じ込められる所だった形を、自分ので終わらせるためだった。
ただし、正が使っていた机だけは残した。表面の傷を削り、濃い茶に塗り直して、最もが入る窓辺へ移した。引きしには黒い帳ではなく、利用者が自由にけるしいノートを入れた。
事件から1のに、野物流は達也運送への正支払いを全額返還させる続きをめ、会社の取引審査も作り直した。親族会社であっても特別扱いせず、見積と配記録を2以で確認する。由は25%の株主として部監査の継続に賛成し、に度だけ数字を確認した。
毎会社へて経営者を名乗ることはしなかった。正から託されたのは会社を支配する子ではなく、数字がおかしいにち止まらせる役割だと理解していたからだ。
広告
達也運送は清算され、達也は所していた両と事務所を放した。刑事事件と返還請求の続きは続いている。千鶴子は、誠司と共していた広い母を維持できず、2で協議して売却を決めた。誠司は自分の持分を理したが、母親のしい活費まで会社や由へ負担させることはなかった。千鶴子はさな賃貸宅へ移り、初めて事も支払いも自分でう活を始めた。
誠司は格も会社に残り、6かの減期を終えた。失った肩を取り戻そうと焦るのではなく、現へを運び、契約を自分の目で読むようになった。由との別活は半で終わったが、夫婦のに以と同じ曖昧な「族だから」は戻さなかった。
完成の、れの扉には内側から簡単にけられる鍵が取り付けられた。灯も増設され、母がなくても駐までるいが続いている。
この所は、野物流で介護や病を抱える社員が、数だけをれて休める施設として使うことになった。利用理由を司へ詳しく説する必はなく、会社の相談窓を通じて鍵を借りられる。
入のさなプレートには、《正リフレッシュルーム》とだけ刻んだ。
利用規則はA4用1枚に収めた。最3泊、利用料は無料、緊急以は会社から仕事の連絡をしない。
最初の案にあった《利用理由を詳しく記入》の欄は、由が赤い線で消した。
「休むために、つらさを証させるのは違うといます」
はその言葉にうなずき、申込を作り直した。正が残した160平方メートルのは、帳簿の数字だけならきな資産ではない。だが、誰にも言えず限界まで働く1を救えるなら、その価値は売却価格では測れなかった。
最終確認の、富子がしいれを訪れた。るい、い壁、湯気をてるポットを順に見ていた彼女は、窓辺でを止めた。
その窓のには、由がを隠した古い便所の跡がわずかに残っている。
「奥様、本当にここを残して、怖くありませんか」
富子は配そうに尋ねた。