"離婚した5日後、私が92億円の都心ビルを相続したと知った夫" 第5話
盗まれた実印
「その類を見せろ」
浩司がを乗りしたが、伊藤先は3億円の連帯保証をすぐに裏返した。原本はが保管しており、届いたのは照会用の写しにすぎない。それでも、保証欄にある署名が私の字ではないことは目で分かった。
田由美。
形だけは似せているものの、「由」の縦線が自然に曲がっている。だが、そのに押された印は、私が28使ってきた実印そのものだった。
「この保証に署名した覚えはありません。の担当者に、私が保証を否認していると伝えてください」
私が言うと、は閉じた契約にを置き、なだめるような笑みを浮かべた。
「奥様、形式のき違いではありませんか。佐藤社から、ご夫婦で承済みだと伺っています。3億円が入れば滞納も解消できる。皆さんにとって悪い話ではないでしょう」
「私はもう奥様ではありません。それに、の署名を作ることをき違いとは呼びません」
の笑みがくなった。浩司は「夫婦だったころに預かった」と言い張ったが、実印を渡したことも、保証を頼まれたこともない。
私は父の介護を始める、実印を赤い布袋に入れ、自宅寝の耐庫へしまった。葬儀の翌朝、婚届の控えと通帳を取りに戻ったとき、庫の扉は閉まっていたのに布袋だけが消えていた。
広告
暗証番号をっていたのは、私と浩司だけである。
嫌な予がして、2目の午1014分に役所で改印続きを済ませ、そので警察署に紛失の相談記録も残した。伊藤先の助言で受け取った受付票が、いま私の鞄に入っている。
「しい印鑑登録証と受付票を、へ送ります」
私が類を差しすと、浩司の膝がテーブルので揺れ始めた。美穂は彼を見ず、スマートフォンの画面を伏せている。2のに流れたい沈黙が、どんな弁より雄弁だった。
は「確認が必だ」と言って席をち、持参した契約を鞄へ戻そうとした。伊藤先はそのを止め、保証に関係する原本や子データを処分しないよう、証拠保全の通を渡した。が封筒を受け取る横で、美穂は何度も親指でスマートフォンを操作していた。誰かに連絡しているのだろう。私が画面を向けて記録するよう求めると、彼女は端末を胸元へ隠し、「これは個の物です」と声をずらせた。
昨までの私なら、を荒らさないために引いたかもしれない。しかし、消えた実印は夫婦げんかの具ではなく、私を3億円の債務者に変える具だった。私は美穂の作と刻をメモし、退する3の背を会議の防犯カメラに残した。
伊藤先はの法務担当者と話をつなぎ、保証の否認、印鑑の変更、警察への相談記録を読みげた。
広告
は融資実を保留にし、申込の本確認資料、アクセス履歴、原本の保を約束した。私もそので被害申告を作り、保証の偽造が疑われる資料として提する準備をめた。
ひとまず止まったと聞いても、胸の震えは収まらなかった。浩司は私との28だけでなく、私の名まで資に換えようとしたのだ。
午512分、から2度目の連絡が入った。融資契約は佐藤デジタル単独の借り入れではなく、ビル取得の付を名目とした取引融資になっていた。実されれば、3億円は浩司の会社ではなく、が代表を務める産会社の座へ直接送される。
しかも側は、保証の異議は婚に伴うな妨害だとして、予定どおりの実を求める見をしていた。
最終判断は、翌朝850分の審査会議。送予約は9ちょうど。
私に残されたのは、わずか1548分だった。