"離婚した5日後、私が92億円の都心ビルを相続したと知った夫" 第1話
葬儀のの婚届
父の葬儀が終わった直、夫の浩司は斎の控で、私のに緑の婚届を置いた。
焼の匂いがまだ喪に染みついていた。廊では親族たちが声で別れの挨拶を交わし、係員がいを片づけている。私はかの介護と、今朝から続く弔問客への応対で、指先に力が入らないほど疲れていた。
「署名してくれ。もう限界なんだ」
浩司は、父の遺を度も見ずに言った。歳になった彼のには、先買ったばかりのの腕計がっていた。
「限界って、何が?」
「君は半も実に入り浸って、社の妻として何ひとつしてこなかった。取引先との会にもないし、装にも気を使わない。介護の匂いをさせた女を連れて歩けるとうか」
、私は彼の会社の経理を伝い、創業には父から借りたまで活費から返してきた。それでも浩司のでは、病の父にをませた半だけが、私の怠として残ったらしい。
父の介護は、きれいないばかりではない。夜に度起き、汚れたシーツを替え、べられる物を探して台所にった。浩司には何度も「今夜だけ来て」と頼んだが、そのたびに会や張を理由に断られた。それでも私は、会社を背負う夫には仕方がないのだと自分に言い聞かせてきた。
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いま目のにいる彼は、その半を労うどころか、私を捨てる理由に使っていた。
半きの扉の向こうで、細いヒールがいた。甘いが線の匂いに混じる。浩司の会社で広報を任されている林美穂だ。葬儀に来た社員なら、駐で待てばいい。それなのに彼女は、浩司の黒いコートを腕に掛けていた。
「あのと暮らすの?」
私が尋ねると、浩司は瞬だけ目をそらした。
「美穂は、君と違って会社の将来を理解している。慰謝料は請求しない。それで分だろう」
彼は胸ポケットから万をし、私の側へ転がした。父を失った女なら、泣いてすがるとっている顔だった。
私は喪の内ポケットに触れた。そこには、父がくなるに病で渡してくれたの鍵が入っている。
『由美、この鍵は葬儀が終わるまでけるな。浩司君が自分で何を選ぶか、黙って見ていなさい』
あのとき父は、酸素マスクので苦しそうに息をしながらも、私のをく握った。そのは分からなかったが、浩司が差しした婚届を見た瞬、父が待っていたのは今だったのだと悟った。
私は所と氏名をき、ためらわず判を押した。を戻すと、浩司の元に堵と勝利が同に浮かんだ。
「の朝、役所へす。今さら取り消しても遅いからな」
「ええ。必ずして」
予の返事だったのか、彼は眉を寄せたが、美穂に呼ばれると婚届を封筒にしまった。が並んで廊をざかり、の匂いが消えたころ、別の音が控ので止まった。
現れたのは、父の法務を担当してきた伊藤誠弁護士だった。歳の伊藤先は、浩司たちの背を確かめてから静かに扉を閉めた。
「ご主は、ご自分ので署名を求めたのですね」
「はい。の朝、提すると」
伊藤先はく息を吐き、黒い革鞄からさな属箱を取りした。正面の鍵穴は、喪のにある鍵と同じ形をしていた。
「では、田郎様の最のごをお伝えします。由美さん、そのの鍵をお借りできますか」