"やさしい義母の消しゴム" 第11話
「た、橘先……!?」
融関の担当者が、入ってきた紳士の顔を見て青ざめた。
橘先は優雅に礼すると、私に歩み寄り、恭しくをげた。
「お嬢様。お約束の刻限でございます。すべての準備がいました」
「お、お嬢様……? 橘先、体なんのことですか!?」
融関の担当者が、汗を吹きしながら声を荒らげた。法律事務所の代表・橘先といえば、政財界の法務や型信託をに背負う業界の鎮だ。
橘先は真由美さんを徹な目で見ろし、元のレザーファイルをいた。
「橘真由美様。あなたが『卒で無な無職の嫁』と蔑み、借の押し付け先として利用しようとしていた麻美は、当事務所の創業者・徳の女であり、族の資産管理信託の受益者です」
「は……? し、……?」
哲也が抜けな声をげた。
「って……あの、国内最の法務グループの……? 嘘だろ、麻美はただのフリーターで――」
「私がをて、旧姓を伏せてで暮らしていたのは事実です」
私は静かに哲也を見つめ直した。
「社会の厳しさをりたくて、自分の力できてみたかった。でも、あなたと会い、結婚した。……あなたが『ただの麻美』として私をしてくれると信じていたから」
だが、現実は違った。 彼らがしていたのは「麻美」というではなく、自分たちのプライドを満たし、都よく支配できる「無力な枠の」
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だったのだ。
「橘先、例の件を」
「かしこまりました」
橘先が図をすと、連れてきた弁護士団が会議のプロジェクターを起させた。 壁に映しされたのは、真由美さんが今朝まで「完璧」だと信じ切っていた数々の「実績」だった。
『私文偽造・印私文使の証拠』 ――麻美の旧姓実印を無断持ちし、千万円の保証契約に勝に捺印する防犯カメラ映像(真由美の自および融関窓)。
『詐欺罪および業務横領の証』 ――元教師のを利用し、域福祉互助会から麻美名義で引きした正資の座履歴。
『暴・精神虐待(Gaslighting)の音声データ』 ――「あなたには価値がない」「も靴も私が選ぶ」「おとなしく病気になっていなさい」という、真由美の酷な肉声録音。
会のスピーカーから流れる、真由美の醜悪な声と笑い声。 ドアの隙から覗き込んでいたOG会の元や域民たちが、息を呑み、引きつった顔で真由美を見つめた。
「な、何よこれ! 捏造よ! こんなの全部嘘!!」
真由美さんは髪を振り乱し、きり声をげた。
「私はこの子をって……! 病気のこの子を助けようと、毎にって掃除も洗濯もしてあげたのよ! 聖母のように尽くしたのよ!!」
「聖母、ですか」
私は歩、真由美さんにづいた。
「あなたが毎うちに来てしていたのは、掃除ではありません。
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私というの『の消』です。私が買った靴を捨て、を奪い、私物を消し……私が私であることを奪っていった。そうすれば、私が無抵抗な形になり、千万円の借を背負ってんでくれるとったからでしょう?」
「ひ、ひぃ……っ!」
「それから、哲也さん」
私はガタガタと震える夫に向き直った。
「『母さんに謝しろ』『気な嫁』……それが、の婚活であなたが私に送った言葉のすべてでしたね」
「あ、麻美……待ってくれ! 俺はらなかったんだ! 母さんが借をしてたことも、おをハメようとしてたことも! 俺も被害者なんだ!」
哲也はなりふり構わず私のをとろうとひざまずいた。 私はそのを、ややかに蹴した。
「らなかったのではありません。『ろうとしなかった』のです。自分の保とマザコンのために、妻が毎削られていくのを見て見ぬふりをした。あなたも、同罪です」
橘先が、枚の類を哲也のに叩きつけた。
「婚協議、ならびに婚内当利得・精神苦痛に対する慰謝料請求です。ご署名を。拒否されるは、即座に民事訴訟および刑事告発に移します」
「警察の方、どうぞ」
橘先の図で、控えていたの警察官がへた。
「橘真由美さんですね。印私文偽造および詐欺未遂の容疑で、警察署まで任同願います」
「やめて! 触らないで! 私は元教師よ! 名誉ある教育者なのよーッ!!」
ホテルの廊に、真由美さんの凄惨な鳴が響き渡る。