みかん小説
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"やさしい義母の消しゴム" 第1話

玄関のたたきを見つめながら、私はさく息を呑んだ。

までそこにあったはずの、お気に入りのベージュのパンプスがない。 代わりに置かれていたのは、爪先が丸く固い、くすんだ濃い茶のローヒールだった。デザインもどこか古くさく、お世辞にも私の好みとは言えないものだ。

「麻美ちゃん、おはよう。靴箱の理、勝にさせてもらったわね」

の奥から、パタパタと軽いスリッパの音をてて現れたのは、義母の真由美さんだった。

歳になる義母は、元学の国語教師だ。柄で細体に、いつもパリッとしたアイロンのかかったエプロンをにつけている。髪混じりの髪はきっちりとろでまとめられ、その目元にはいつも、仏様のような穏やかな笑みが浮かんでいた。

「あの、お義母さん。私のあのパンプスは……?」 「ああ、あれね。かかとがしすり減っていたでしょう? 若い子が履くような派だし、今の麻美ちゃんのにもわないとって、私が処分しておいたわ。代わりにこれ履いてね。丈夫で持ちするから」

真由美さんは柔らかい声でそう言い、私の返事を待つこともなく、にした固く絞った雑巾で駄箱の棚を拭き始めた。

処分した――。 あのパンプスは、私が独代に自分の料で買った、切に入れしていた靴だった。

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すり減っていたと言っても、先週ヒールを修理にしたばかりだ。

「……ありがとうございます」

私は静かにげた。ここで反論してはいけない。それをすれば、私は「せっかくの親切を無にするがままな嫁」になる。

夫の哲也と結婚して半。 義母がこの世田のマンションに通い始めてから、ちょうど半が経っていた。

「麻美ちゃんは卒で、ずっとアルバイトばかりだったでしょう? 世体もあるし、事のやり方もちゃんとについていないとうの。哲也は仕事が忙しい子だから、私がちゃんとサポートしてあげないとね」

結婚当初、義母は哲也のでそう微笑んだ。 哲也は「母さんは本当に優しいな。麻美、謝しろよ」と目を細め、義母に鍵を渡した。

それ以来、義母は毎朝にやってくる。 掃除をし、洗濯をし、夕ごしらえをして、夕方に帰っていく。

所でも評判の「聖母のようなお義母さん」だった。 マンションの敷内ですれ違うたちは、私を見ると誰もが親しげに、そしてどこかれむような線を向けてくる。

『麻美さん、いいお義母さんでよかったわねえ』 『真由美さん、あなたが定で働けないから、毎配して通ってるって言ってたわよ。事にしなきゃダメよ』

らぬに、私は「社会適応能力がなく、義母に寄してきているれな嫁」

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というレッテルを貼られていた。

義母の法は、あまりにも鮮やかだった。

から、私のしずつ消えていく。

私が好きで使っていたラベンダーの柔剤は、義母が持ち込んだ無料の業務用洗剤に変わった。 私がお気に入りの雑貨で買ったピンクのマグカップは、「欠けやすいから」という理由で、義母が実から持ってきた気ないの湯呑みに置き換わった。 クローゼットのの私のは、義母が「洗濯のついでに理した」と言って、奥のほうへ押しやられ、には義母がどこかの量販で買ってきた、なチュニックばかりが並ぶようになった。

私の、私の靴、私の好み、私の活習慣。 このから、私を構成するあらゆる“私物”が、ひとつ、またひとつと静かに消しゴムで消されるように消えていく。

そして今朝、靴が消えた。

「麻美ちゃん、お昼は蔵庫にうどんを入れておいたからね。あんまりると疲れちゃうでしょう? でおとなしくしてなさい」

義母は私の肩を優しく叩くと、自分の鞄を抱えて買い物へとかけてった。

静まり返ったリビングで、私は、ぽつんとち尽くす。 ダイニングテーブルのには、義母がいた「今のやるべき事リスト」が几帳面な文字で置かれていた。

「ただいまー。うわ、今もいい匂い。

やっぱり母さんの作る筑煮は最だな」

。仕事から帰ってきた哲也は、スーツを脱ぎ捨てながらダイニングの子にく腰掛けた。

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