"十三足目の黒い靴" 第13話
『桐院宗郎様。あなたの完璧な記録を、より楽しみにしております』
「な……っ……」
宗郎の瞳が恐怖で収縮した。自分が「実験物」として見していたはずの妻に、最初からのひらので踊らされていたのだと悟った瞬だった。
「まあ……なんて恐ろしい……」 「宗郎くん、君という男は……!」
母や親族、自治会たちが、汚いものを見るような目で宗郎を見つめていた。彼の積みげてきた「模範な夫」「誇りきエリート」という社会位が、勢の目ので音をてて崩壊していく。
宗郎は膝から崩れ落ち、虚ろな目で私を見げた。
「美咲……頼む、やり直そう……僕は君なしでは……」
「いいえ。私はもう、あなたの作られた物語のヒロインじゃないわ」
私はたく言い放ち、彼に背を向けた。
パトカーの赤いサイレンのが、夕暮れの宅を静かに照らしていた。
宗郎は、傷害罪および磁記録正作、そして精神保健福祉法違反の疑いで、警察両へと連されていった。取り調べがめば、私に無断で投薬していた成分や、偽りの診断を作成させたクリニックとの癒着もすべて暴かれることになるだろう。
彼がったの静かなリビングで、私は母と佐々弁護士に向きった。
「美咲……ごめんね、お母さん、何も気づいてあげられなくて……」
母は涙を流しながら私のを握りしめた。
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「いいのお母様。彼が巧みすぎただけだから。……でも、もう終わったわ」
私は自に戻り、あらかじめ用しておいたさめのスーツケースをにした。に入っているのは、結婚の私のと、父の写真、そして自分自の分証だけ。宗郎に買わされた価なや貴属は、つとして持っていかなかった。
玄関へりると、あの13の黒い靴が、警察の証拠品として保袋に収められていくところだった。
「美咲さん、青の『ギャラリー・しずく』の権利と名義は、すでに保全続きを完しました。あなたの資産は切、彼のには渡りません」
佐々弁護士の言葉に、私は々とをげた。
「ありがとうございます、先。……私、自分ので、あそこへってみたいといます」
「青へ?」
「ええ。この、彼に見せられていた偽物の赤ではなく、本当の青の並みを、自分の目で確かめたいんです」
私は靴箱から、に自分が自分で買った、し使い古されたスニーカーを取りして履いた。
カカトをトン、と鳴らす。
宗郎が用したどの靴よりも軽やかで、自分のにしっくりと馴染む覚。
がのな製ドアをけ、歩へ踏みした。
夕暮れのよいが、私の頬を撫でていく。喉の奥にへばりついていたあの苦い薬のは、もうどこにもなかった。
私は歩、また歩と、自分の志で歩き始めた。
宗郎は私を「自分なしではきられない病」に仕てげ、永に鳥籠のに閉じ込めようとした。だが、彼が私にかけた呪縛は、私自のい志と徹な性によって、完全に打ち砕かれたのだ。
携帯話がさく震える。 見ると、親友の由からの着信表示だった。フィルターが解除され、本来の繋がりを取り戻した世界。
「もしもし、由? ……うん、ごめんね、くなっちゃって。今から会える?」
話越しに聞こえる友の懐かしい声に、私はの底から、透で温かな笑顔を浮かべた。
の空に、綺麗な夕焼けが広がっている。
私は度も振り返ることなく、自由で、何ものにも支配されない、自分のへと歩み続けていった。