"「一円もやらない」姑と二十六億円の遺言" 第23話
佐藤の空気は、確かにあの凍りついた。
しかしその氷を溶かしたのは私ではなく、彼女たちの勝な欲そのものだったのだ。
あの件から季節はつ巡り、の澄んだ空気がを包み込んでいた。
私が代表を務めるホワイトリーフは、社名を『誠産』へと変更した。
私の父、誠がかつて抱いていた『まうの幸福を第に考える』という志を、もう度この世に形にするためだ。
オフィスビルの窓から見える景は、あの病院の廊から見た景とは全く違っていた。
私のに澱んでいた黒いは、今はもう欠片も残っていない。
彦が優しく声をかけてきた。
「準備はいいかい?」
今はあの以来、度も訪れていなかったある所へ向かうだ。
私たちはまず、都からしれた公営の特別養護老ホームを訪れた。
そこは清潔ではあったが、かつて義母の苗さんが過ごしていた、あのホテルのような特別病とは比べるべくもない簡素な施設だった。
共スペースの窓際で、子に座ってぼんやりと庭を眺めている老女がいた。
苗さんだ。
あんなに鋭かった目つきは穏やかというより、魂が抜けたようにうつろだった。
彼女のがんは標準な治療によってこそ抑えられていたが、気力は完全に失われていた。
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私が声をかける。
「お義母様」
彼女はゆっくりとこちらを振り向いた。
私と彦の姿を認めると、その唇が微かに震えたが、以のような罵倒も理尽な懇願もてこなかった。
苗さんがつぶやく。
「ゆきさん……彦……」
彼女が元に持っていたのは、枚の古びた写真だった。
それは、私たちが結婚したばかりの頃、まだお義父様も健で族全員で撮った、唯の集写真だった。
彼女が寂しげに呟いた。
「恵子さんと美咲さんは、今も来ないのね」
恵子さんと美咲さん。
彼女たちは今、自分たちが背負った莫な負債と向きう々を送っている。
16億円のは取り壊しの未払いによって政代執がわれ、彼女たちはわずかな荷物だけでに迷った。
今は郊の古いアパートにを寄せ、かつては底辺と蔑んでいた清掃の仕事やのライン作業に従事している。
男の健さんと男の夫さんは実刑判決を受け、今も塀のにいる。
恵子さんと美咲さんは自分たちの活を支えるので精杯で、1円の得にもならない義母の元へを運ぶ余裕など、もはやどこにもないのだ。
ではなくだけで繋がっていた絆が、いかに脆いものだったか。
苗さんはこの静かな部で、毎それをいらされているのだろう。
私は苗さんの膝のに、枚の写真を置いた。
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お義父様が残していた、父誠と並んで笑う写真だ。
「お義母様、これを」
私は静かに語りかけた。
「お義父様はあなたをしていなかったわけではありません。ただあなたを正しいへ引き戻したかったのだといます。この写真は、お義母様が持っていてください」
苗さんはその写真を震えるで受け取った。
そして、初めて私の目を見て、静かに涙を流した。
「ごめんなさい、ゆきさん。ごめんなさい」
その言葉が彼女の本からの謝罪だったのか、あるいはただの傷だったのかは分からない。
でも私はその言葉を聞いて、ようやく自分の過を完全に許すことができた気がした。
施設をにした私たちは、そので父の墓へと向かった。
の柔らかな差しが、墓を優しく照らしている。
私はしく作った名刺と、会社の統報告を墓に供えた。
「お父さん、ただいま。やっと返せたよ。お父さんが作った会社も、お父さんが守りたかった誇りも」
隣で彦が静かにをわせ、こう呟いた。
「誠さん。ゆき、あなたの娘さんをこれからは俺が守り抜きます。佐藤の罪は俺がをかけて償い、彼女と緒にしい未来を築いていきます」
彦の言葉に、私は胸がいっぱいになった。
お義父様が私をこのに呼び寄せ、彦と結びつけたのは、単なる罪滅ぼしだけではなかったのかもしれない。
私と彦が歪んだ族の形を正し、本当の幸せを見つけることを願ってくれていたのだと、今は確信できる。