"乳がん手術日にゴルフへ行った夫の末路" 第20話
「ゆかのも、こうだったのかって」
私は静かに言った。
「違うよ」
啓介が息を止めたのが分かった。
「私のは、お母さんがいてくれた」
私は事実を告げる。
「術に入るに、を握ってくれた。目が覚めたも横にいてくれた」
言葉をねる。
「退院したも、優馬の世話をしながら私のことを気にかけてくれた」
彼を刺す。
「あなたみたいに、1じゃなかった」
啓介は何も言わなかった。
「でもね」
私は続けた。
「夫は、いなかった」
その言葉の、話の向こうで微かな呼吸音だけがした。
「ごめん」
「うん」
「今更だって、分かってる」
「そうだね」
「でも本当に、分かってなかった」
その言葉に、私はしだけ笑いそうになった。
笑える種類のことではないのに。
「そうだろうね」
「ゆかがどれだけ1だったか、分かってなかった」
「そうだろうね」
「俺、ずっと自分はそこまでひどくないってってた」
私は答えなかった。
「でも違った。俺、いたのにいなかった」
そこだけは、ようやく正しかった。
私はしばらく黙った、静かに言った。
「あなたが1で辛かったなら、お父さんに頼めばよかったじゃない」
私は彼に引導を渡す。
「女親がいればりるって言ってたんだから、男親でもりるでしょ」
話の向こうで、息をむ音がした。
い沈黙が落ちた。
「すまなかった」
私はその言葉を聞いても、何もかなかった。
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りも、びも、戻りたい気持ちも、何にもなかった。
「その言葉は、せめてあのに聞きたかった」
話の向こうで、今度は息が止まったような音がした。
でも、もう遅かった。
私は通話を切った。
通話が終わった画面をしばらく見つめて、それから静かにスマートフォンを伏せた。
これで終わったとった。
許したわけじゃない。
ただ、終わったのだ。
もうあのに分かってもらう必がなくなった。
窓のでは、夜のが静かだった。
私はその静けさので、ようやく本当にを向ける気がした。
しい部で迎える朝は、っていたよりずっと普通だった。
目が覚めて、カーテンをけて、お湯を沸かす。
窓のには、昨と同じ建物があって、同じが伸びている。
特別な朝ではなかった。
でもその普通さが、ありがたかった。
台所で噌汁を温めていると、ろでさな音がした。
「ママ、おはよう」
「おはよう」
振り返ると、優馬が自分でリュックを持ってっていた。
まだし眠たそうなのに、背丈だけは分にある顔だった。
「持つの?」
「うん。これ、優馬の」
「そうだね。優馬のだね」
私はしゃがんで、肩紐をえてやった。
そこへ母が部に入ってきた。
「おはよう。役所にす分、これで丈夫だとう」
クリアファイルとさな買い物袋を持っていた。
に雑巾とハンカチ、それからしい歯ブラシが入っていた。
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「ありがとう」
「朝ご飯べたら、緒に確認しよっか」
卓に並んだのは、噌汁と卵焼きとご飯だった。
特別な料理じゃない。
でもそれで分だった。
優馬は卵焼きを頬張りながら、嬉しそうに言った。
「今、ばぁばもく?途までね」
「やった」
その声を聞いて、私はしだけ笑った。
のより狭い。
便なこともこれからたくさんある。
類も続きも、まだ全部終わったわけじゃない。
それでも、この朝はちゃんと回っていた。
誰かの嫌を伺わなくていい。
いつ帰るのか分からないを待たなくていい。
事なことを事なこととして扱っていい。
それだけで、部の空気まで軽くじた。
、私は母と緒に類を確認した。
役所の続き。
保育園の連絡先変更。
今の必類。
ペンを持つは、っていたより落ち着いていた。
窓のから、朝のがまっすぐに入ってくる。
そのるさので、私はようやくった。
ここからは、自分で決めていいんだ。
優馬がリュックを背負い直して、得そうに玄関へ向かった。
「うん。こう」
私はその背を見ながら、静かに息を吸った。
もうあのを振り返ることはなかった。
ので、私はだけを見ていた。