"乳がん手術日にゴルフへ行った夫の末路" 第16話
私は何も言わなかった。
その気持ちは分かった。
分かりすぎるくらい分かった。
術のがづくたびに、胸の奥がざわつくこと。
麻酔の説を聞いただけで、指先がたくなること。
病院のい廊を像するだけで、眠れなくなること。
私はそれを、もう経験していた。
「1泊だけだけど、やっぱ付き添って欲しいんだよ」
啓介はそう言って、私の顔を見た。
当然そうしてくれるよな、という顔だった。
疑っていない顔だった。
「来週の曜な。朝いからさ」
リモコンを取って、またテレビの方へ線を戻した。
「優馬の送りだけ、おのお母さんに頼んでくれればさ、あとは術のだけおが病院にいてくれれば済むし」
その言を聞いた、私ので何かがはっきりと揃った。
おのお母さんに頼めばいい。
術のにおがいればいい。
それで済む。
あのと何も変わっていない。
自分が術する側になっても、まだこのは自分をに物事を考えている。
私がどんな記憶を抱えているかも、どんな気持ちでその言葉を聞くかも、何1つ像していない。
私は返事をしなかった。
啓介はそれに気づかないまま、テレビの音量をしげた。
画面のでは、どこかののラーメン特集をやっていた。
私はちがって、シンクへ向かった。
べ終わった皿をねて、を流す。
広告
流れるの音を聞きながら、あののことをいしていた。
1泊2。
全麻酔。
怖い。
付き添ってほしい。
全部、私があの言いたかった言葉だった。
でも私はそれを言うにみ込んだ。
み込まされてきた。
コップを洗い終わって、を止めた。
私の答えはもう決まっていた。
翌朝だった。
私はいつも通りに起きて、優馬の朝ご飯を用した。
パンを焼いて、卵を溶いて、さな皿に切ったバナナを乗せる。
リビングでは、啓介がソファーに座って朝の報番組を見ていた。
片にはスマートフォン。
コーヒーのカップがテーブルの端に置いてある。
優馬はまだし眠そうな顔のまま、私の膝に寄りかかっていた。
「来週の曜、朝いから頼むな」
画面から目をさないまま、啓介が言った。
私はバナナの皿を優馬のに置いた。
「何を?」
私が聞く。
「何をって、付き添いだよ」
当然のようなぶりだった。
昨夜で話はついたとっている声だった。
「術のだけいてくれればいいから」
私は優馬のを撫でてから、膝ののさな体をにろした。
優馬は何も分からないままミニカーを持って、ラグのに座り込んだ。
私は啓介を見た。
「かないよ」
啓介のが止まった。
テレビのでは、司会者が気の話をしていた。
『よくれるでしょう』とるい声が流れていた。
広告
啓介がゆっくり振り返った。
「は?」
「かない」
「いや、何言ってんの?」
私は同じ姿勢のままっていた。
「仕事だから」
数秒、部の空気が止まった。
「なんだよそれ」
啓介が苛つ。
「あの、あなたが私に言った言葉」
啓介の顔から、ゆっくりが引いていった。
「何の話だよ。全然分からない」
「分かんないよ。俺、術なんだぞ」
「私も術したよ」
啓介の目が、そこで初めて揺れた。
「乳がんの術」
啓介は黙った。
「説のには来てくれたね。でも、の夜にどうしてもせない仕事が入ったって言った。術なんだけどって」
私は言い放つ。
「病院から、族に待ってて欲しいって言われてるって言っても、お母さんに来てもらえばいいだろって言った」
私は息つく。
「あのは信じてたよ」
私は遮らずに言った。
「本当に仕事なんだって。仕方ないんだって。だから何も言わなかった」
啓介の喉がさくいた。
「でも、仕事じゃなかった」
その瞬、啓介の線が逃げた。
「ゴルフのレシートを見たから」
彼を逃がさない。
「ジャケットのポケットに入ってた。のには駐券もあった。入庫刻、午740分」
啓介は何も言えなかった。
「私が術に入るから、あなたはゴルフにいたよね」
い沈黙が落ちた。
優馬がミニカーをにらせる音だけがさく聞こえていた。
「あれは」
声が掠れていた。
「取引先に誘われて、断れなかった」
彼は言い訳をする。
「妻が乳がんの術を受けるに、仕事の付きいもあったんだよ」